婚約者には愛する人ができたようです。捨てられた私を救ってくれたのはこのメガネでした。
 陽が沈み始める夕方。やっとこの現場での仕事が終わる。
 ヘイデンはエメレンスのことをこの現場で働く採掘師や魔導士たちに、新しい仲間であると紹介した。レンと名乗る彼が、まさかこのリンゼイ王国の第二王子であることに誰も気付かない様子だった。屈強な採掘師たちからすれば、また線の細い男がきたな、という印象ではあるようだが、それでも魔導士と採掘師たちの関係が改善しているのはヘイデンのおかげでもあるし、何気に影の功労者はリューディアであったりもする。

「レン……は、どちらに住んでいるのですか?」
 現場からの帰り道。
 リューディアはエメレンスと並んで歩いていた。この採掘現場から官舎までは歩いて五分の距離。
「ボクも官舎だよ。だけど恥ずかしいことにまだ、自分の身の回りの世話はできないからね、向こうから使用人も連れてきたんだ」
 それが本当に恥ずかしいのか、エメレンスは少し俯いた。
「そうなのですね。わたくしも、お兄さまたちと一緒に官舎の方で暮らしております。本当にこちらに来てからは、何でも自分でやらなければならなくて」
 ここに来た初日。あのガイルから白くてきれいな手と評されたその手は、今ではだいぶしっかりとしてきて手の皮も厚くなってきている。

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