転生したら、シンデレラの姉だった件

 「…義姉様、お気を確かに!」
 ーそれから、きっちりーとは言えないかもだけどー25分経って。
 私と同じ目線までしゃがんだエラさんが、ゆっさゆっさと、私の両肩を揺さぶった。
 「…うぅ…私が…私が、ルリア…不細工な…女の人…」
 身体を揺すられるまま、私の頭はカクンカンクと、上下に揺れる。
 …抵抗する気なんて、全然無い。
 …というかー人が落ち込んでいる時に、揺らさないでー!!
 …と、反論したいのが山々だけど…今は、それらの力すら無いくらい…私は、落ち込んでいた。
 …落ち込みすぎでしょ、情けない!!
 もう1人の自分がどなる声がするけど…
 だって、落ち込んじゃうじゃん?
 シンデレラをいじめていた (…うーん、多分?、…否、確実にいじめていただろう) 、3人のメンバー。
 義母
 もう1人の姉
 (その人の名前は、何て言うんだろう?
 …って、今は、それどころじゃなーい!!)
 …そして…
 私が転生した姉
 ルリア…

 「シンデレラ」
 の映画や、物語を読む中で、私が散々、憎らしく思っていた、彼女達。

 …なのに…うううううっ…!!
 「…何をそれ程、落ち込んでらっしゃるのか…にしても、本当に義姉様なのですね?
 少なくとも、その瑠璃色のドレスを見る限りは…てすが、それ以外は…」
 エラさんが、じっと私を凝視しつつ、問い詰めてきた。
 …瑠璃色のドレス以外は…何なのだろう?
 もしかして、…まさか…!!
 (まさかもっと、不細工になっていたりして…!?)
 「…エラさん…至急、鏡を貸していただけまーいただけなくって?」
 …もしこれ以上、悲惨な顔だったりしたら………!
 …そうだとしたら、完っっ全に詰む…!!
 私は頭を悩ませながら、エラさんに頼み、姿見の鏡を持ってきて貰った。

 額縁は木製で出来ているその鏡は、他のオンボロの家具とは違い、唯一ピカピカ。
 …もしかすると、亡くなったエラさんの母ーこの屋敷の、本当の奥様だった人のものなのかもしれない。
 …落ち込んでいる割に、私はやけに、冷静な頭で。
 ふと、そんなことを思った。

 ………いやいや、違うでしょう私!
 折角、エラさん鏡を持ってきてくれたのだから…。
 ここは思い切って、確認しなければ…!
 例え、それがー豚よりも不細工な 
(ごめんなさい、ごめんなさいーっ!
 この例えは、豚さんに失礼なのは、分かってはいるんです、はい!)
、顔だとしても…。
 …ドキン、ドキン…!
 今まで生きてきた、29年間の中でー1番、私の心臓が鳴り響いているのでは?
 うん、確実に今、心臓が、爆発寸前だ!
 あぁ、良い意味じゃない…きっとこれは、悪い意味の………!!
 うっ、見たくないっ…!!
 だって…見ずとも、分かってるしぃ…!!!

 「…っ…ぶさい……」
 両手で目を隠しながら、恐る恐る、今の自分のーもとい 「ルリア」の顔を見た私は…。
 「…ぎょ…ぎょえええええええええーっ!!!!」
 次の瞬間、前世も合わせた人生の中で、最大級の悲鳴を上げてしまうこととなった。

 「…う…
 …嘘…っ…!?」
 どうせ不細工だ…なんて思い込んでしまった、たった数秒前の私よー
 これは一体全体、どうなってんねん!!!?
 …こんな、美少女…年…というよりは…女?
 否、超絶 美少女!
 …こんなに、綺麗な女の子ー今までに、見たことも、聞いたことも…無いんですけどおおおおぉー!?

 ーエラさんの言う通り…完全に、容姿が変わっている。
 身に纏う、瑠璃色のドレスを除けば、だけど。

 …ふわふわ、さらさらと、音も無い風に靡き、(なびき) 、つやめく虹色の髪。
 ー日光が当たる度、背中まであるそれらが美しく、キラリ…!、と煌めきを放つ。
 瑠璃色にも、桃色にも、金銀色にも。
 瞬く度、どんな色にでも変化する、大きくてハッキリとした、透き通ったような、両の瞳。
 …桃色と薔薇色が、上手く混ざりあったかのような、淡いようで濃い、儚いようで妖艶な、ピンクがかった唇…。
 エラさんの、何百倍も整った 
(これも、本人にはとても酷い悪口だと思うけど…っ…!
それでも、事実なのですっ!!) 、端正な顔立ち…。

 ー鏡の前に映る、私は…
 転生前のルリアよりもーこうなると、自負になるけれど、誰よりもー
美しく綺麗な人に、なってしまっていたのだ…!!

 ーけれど、今の私は…恐らく、7歳くらいだろう。
 …となると…だよ?
 …となると…
 (…まって…待って!!
 …私ールリアが、舞踏会に参加するのー絶対に無理じゃない!!)
 …どうしようっ!
 この背格好だと変だし…!
 「…いやいや、主人公は、エラさんなんだし…」
 私の言葉に、エラさんが、
「?」
 微かに、子首をかしげている。

 …私は、エラさんを一端放置しておいて、部屋の窓から見える空に向かって、叫んだ。
 この異世界に、私を転生させた、どこぞの神様とやらに向かって。
 心の中で、凄く大きな声で。

 ー神様ー!!!!
 美少女に転生したのは良いんです!
 私にとっては、とても良いこと、なんですけどっ!!
 (…緊急事態が、発生しましたー!!!!)
 私では到底、乗り切れないですよーっ!!!!
 …
 ……
 それから、どれくらいの時間が経ったんだろう。
 私が両手を組み、神様に向かって 
(いや、本当は、私を転生させたのが神様かどうか、知らないんだけどね?)
 、祈っていると…。

 ーパアアアアッ!
 …突然、着ていた瑠璃色のドレスのポケットから、黄金の光が溢れだした。
 「…わぁ、有り難うございます、神様!」
 私は大袈裟な身振りで、上空に向かって万歳をした後、ポケットの中を探り始める。

 いやいやいや、いや!!
 貴女は一体、何処のお調子者でございますか、お嬢様!?
 …前世で、長らく私の執事だった、爽斗 (そうと) さんなら…。
 此処で間違いなく、クールに突っ込んできたことだろう。
 彼は何時もクールで、隙があれば毒舌を吐いてきた。
 けれど、頼りがいがあって、優しく、時には身分関係なく、頼り頼れる仲で…。
 …爽斗さんは、私にとって…、
 そう、ー今思えば…彼は…
 (あぁ、んもぅ!!
今は、そんなことを思い出してる場合じゃ、なーいっ!!!!)
 私は過去を振り返り出した自分にーもう何度突っ込んだか分からないけどー突っ込む。
 そして自分の右手で、その黄金の輝きを、それぇっとばかりに引っ張り出した。

 ーそして、現れたのは…
 「…つ…え…!?」
 …現れたそれを見て、私は呆気に取られ、すっとんきょうな声を出す。
 それはーどっしりとしたーそう、けやきの木で作ったような重みのー1本の杖。
 …わぉ…!
 これは、本当に役に立ちそう!
 …まぁ多分、エラさんのためー物語をハッピーエンドへと導くための、代物なんだろうな…!
 この時の私は、勝手にそう決めつけて…杖を右手に握ったまま、エラさんへと向き直った。
 そしてー声高らかに、こう宣言したんだ…!
 「…さぁ、エラさん、
 …私があなた様を、これから…。
 幸せにして、差し上げましょう!」
 ーってね…!
 この杖と、知識さえあれば、きっと…!
 多分、切り抜けられる…!
 …ちょっとぉ!!
 きっとか、多分…か…どっちなのよぉー!!!!
 私の言葉に反発する、自分の心の声。
 それを無視して、目をぱちくりさせるエラさんには構わず、私は、ふふっと笑う。

 その杖に刻まれた翡翠の宝石と、竜の紋章も、それを持つ者の、本当の意味も…。
 エラさんのハッピーエンドを、心から願う。
 その為にどうするかを考えていた、この時の私は、まだ…。
 まだ、知らずにいたー。

 …この杖は、後に、ほんの少し先の未来で、物語以外に、ルリアのー美氷の役に立ち、大活躍することとなるー。
 …だが、それはまだ、先のお話ー。
 
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