2度目の人生で世界を救おうとする話。後編
「紅」
凛とした美しい声が私の名前を呼ぶ。
こんな声を出せる人なんてこの世に1人しかいない。
「麟太朗様。お疲れ様でございます」
「お疲れ様。紅。それにみんなも」
声のした方へ体を向けて私は慣れた動作で綺麗に頭を下げる。
それを見て麟太朗様は優しく、そして美しく笑った。
みんなも私に続いて「お疲れ様でございます」と麟太朗様に挨拶をしている。
1年前はこの感覚を忘れていて恥ずかしい思いをしたこともあったが、今では完璧だ。
「紅、アナタと2人で少しだけ話がしたいんだ。いいかな?」
「…はい」
麟太朗様と2人だけでの話。
この時期でこれはもしかしたら〝あれ〟かもしれない。
正直気が乗らない提案ではあるが、私なんかが麟太朗様の提案を断ることなんてもちろんできなかった。
「ありがとう。それじゃあ紅を少しだけ借りるね」
優しい麟太朗様の笑顔だが、どこか蒼のように胡散臭い。
裏で何かを考えいるようだ。
*****
麟太朗様に連れられて寮内にある小さな応接室へやってきた。
そして麟太朗様は部屋に入るなり、突然表情を曇らせた。
「由衣から話を聞いたよ。紅は由衣のことが嫌いなのかな」
「…」
やっぱりこの話か。
1度目でも歓迎会の時ではなかったが、急に麟太朗様に呼び出されて全く同じ話をされた。
あの時は戸惑ってただ必死で否定したことを覚えている。