2度目の人生で世界を救おうとする話。後編





「おはよう、武」

「おはようございます」



私の右隣に現れた武に私と朱はそれぞれ挨拶をする。
私も朱も笑顔だが、朱の笑顔はどこか作り物のようだ。
綺麗な笑顔だが、私に見せてくれる心からの笑顔ではない。


そんな私たちに武も「おはよ」と挨拶を返してくれた。


桜の散る中で私の隣を歩く武はとても涼しげだ。
顔の良さもあって絵になる。

無造作にセットされている青みがかった深い黒髪が桜の花びらと一緒にふわふわと揺れていた。


本当、顔が整っているよね、武って。



「…何、人のことじっと見てんだよ。転けるぞ」



何となく武を観察していると、そんな私の視線に気づいた武は呆れたように私を見つめた。



「大丈夫、俺身体能力高いから」

「そういう問題じゃねぇよ、バカ」



そんな武に私は自信満々の笑みを向ける。
すると武はおかしそうに切長の瞳を細めて笑った。



「バカ?武さん今僕の兄さんにバカって言いました?」



私たちの会話…いや、武の発言が気に食わなかった人が若干一名いたようで。
私の左隣を歩く朱から明らかに怒っている声が聞こえる。

朱の方を見ると、朱はしっかり怒っていて、作り物のような笑顔は継続中だが、目が笑っていなかった。



「言ったけど何?」



明らかに怒っている朱だが、怒りの矛先である武はあまり気に留めている様子はなく、どこ吹く風だ。



「兄さんはバカじゃありません。訂正してください。それに仮に兄さんが転けそうになっても、僕が支えるのでいくらでもよそ見していていいんです」



相変わらず私に対して過保護な朱に、武は「出たよ、朱の過保護」と呆れたように呟いた。



「いつもお前が紅を見られる訳じゃないだろ?むしろ同い年、同じクラス、同じ次期当主、同じ守護者である俺の方が紅と一緒にいる時間は長いからな。しっかりしてもらわないと」

「…僕は兄さんの弟です。同じ葉月で家族です。武さんよりもずっと側に居たし、これからも僕の方が兄さんと一緒にいます。なので大丈夫なんです」

「お前は家族ってだけで別にずっと紅とは居られないだろ。俺はお前以上に紅との共通点があるし、俺の方が紅とずっと一緒にいるんだよ」

「家族って一番強い繋がりだってことをご存知ですか?家族以外は所詮他人なんです。つまり武さんはどんなに足掻いても兄さんにとっては赤の他人なんですよ。そんな他人が僕より兄さんと一緒にいられるとでも?」

「は?赤の他人?俺たちは親友だから。他人じゃねぇから。どれだけ一緒にいると思ってんだ?お前以上にいろいろ一緒に経験して来てんの。お前は弟、ただそれだけだ」

「その弟であることがどれだけ兄さんにとって大きいかわかっていないんですね。ああ、本当に可哀想な人ですね」



…何を張り合っているだ、こいつらは。


そもそも朱とは血の繋がりはないからね。
冬の帰省の時にはお互いそれをきちんと認識しているし。

まあ、朱は私のこと異性として好きだとか兄弟じゃない方がいいだとか言ってたけど私にとって朱は大切な弟だし、家族だから。


この2人が揃うといつも変な言い合い始めるんだよね。



「はいはい。武とはこれからも長く一緒にいるだろうし、朱も俺の大切な家族だから一緒に居てくれるよね?2人とも一緒だよ?」

「「一緒ではない」」



黙っているといつまでも言い合いを続けるので、頃合いを見て、何とか宥めようと苦笑いで2人の会話に入る。
すると2人は真剣な顔で私の言葉を否定した。
見事にハマらせて。


仲がいいのか悪いのかわからないわ。






< 5 / 55 >

この作品をシェア

pagetop