【仮】イクツニナッテモ
・プロローグ
溜め息が出た。何度も。それが羨ましくもあったから。
自分よりも『人として出来てる人』。
接する度、そう感じるようになっていた。
持って生まれた性格もきっとあるのだろうが…多分、経験?。仕事上での、決して良いことばかりではない、繰り返される様々な事案、辛いこと、キツイこと。その経験から作り上げられてきたものなんだろう。感心してしまった。思わず、若いのにね、って呟いてしまった。知らず知らずに嬉しかったからに違いない。そうだ、私は嬉しかったんだ。
それが例えば心からでないとしても、それを言葉として表現出来る、実行出来ているということでは尊敬に値する。
私なら励ます言葉をかけたとしても、きっと口先だけだろうとばれてしまうだろう。例え本心から言っていたとしても、やはり偽善だと。
他人のミスにイライラしない。イライラしたとしても態度に現さない。寧ろ穏やかなくらい。波立たない様子。
気分にムラはないのだろうか。
変わらない声。荒らげることもなく、一定のトーンで語りかけるような口調。そして、その声はとても柔らかい。
尊敬とは名ばかりの偽り、これって実は……溺愛、しているのではないか。
そんな人の声に、私は今夜も癒されているし、癒しを求めてここに居るような気がした。
< 1 / 16 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop