【仮】イクツニナッテモ
暗い空をあおいだ。濡れるほどの距離ではない。少し駆ければ駅の入り口は直ぐだ。駆け込んでしまえばあとは濡れる心配もない、階段を下りるだけ。
アーケードの端まで来たところで雨が降っていることに気がついた。
大丈夫だ。雨は弱そう。霧のような雨だ。
天気予報め…今日、雨が降るなんて出てなかったのに。でも最近は予報がめっきり当たらない。急に降りだしたり、降るはずが凄く天気が良かったり。…だからね、それが分かってるなら折りたたみ傘くらい持っときなさいよってことだ。
心配なのは帰って駅に着いてからのこと。
その頃には止んでるといいんだけど。
天気図…雨雲はどうなってるだろう。
スマホを取り出して今からの雨雲の動きを見てみようと思った。
「猛家さ~ん」
…ん?
「猛家さん?」
え?
後ろから声がした、気がした。なんだか分からないけど呼ばれてる。心臓がうるさくなった。確かにタケウチさんと聞こえたような。……でも、こんな時間だ。そもそも私の知り合いなんてここに居ないだろうし。きっと似た名前の…聞き間違いだ。そうだ、違うタケウチさんかもしれない。
…て、辺りに人が居ない。ショルダーバッグの肩紐を無意識に両手で掴んだ。
「猛家さん」
やっぱりだ、タケウチさんて聞こえる。返事した方がいいか迷った。恐いっていうのもあったから。振り向けない。棒立ちだ。
いきなり横から黒い棒が出てきた。あまりに突然で声が出なかった。…えっ?
「どうぞ」
「わっ、え゙っ!」
「え?ハハハ、そこは普通…」
…びっくりした。
「…どちらかと言えばキャーって言うところですよね…」
心臓がまだ跳ねたままだ。
「ハハハ、驚きました?すみません、変な声、出させてしまいましたね」
確かに驚きしかなかった。
「ハァもう……本当、…驚きました。それに…はい、恥ずかしいです。それからごめんなさい。私なんかを呼ぶ人なんか居ないと思ったから、こんな時間だし恐かったし、なかなか振り向きもせず返事もしなくて。あ、言い訳ばかりして、…ごめんなさい」
「あ、そんなのいいですよ。こっちも呼んだら驚かせちゃうだろうなって思ってましたから。これ、使ってください」
黒い棒だと思った物は傘だった。
「あ、でも」
正直、戸惑った。
「遠慮せず、とにかく使ってください。可愛い代物ではないですけど。はい。お疲れ様でした。では、おやすみなさい、気をつけて帰ってくださいね」
手を出さなかったから、そう言って傘は押し付けられてしまった。
「あ、あ、でも…」
でも、でも、ばっかりだ。はっきりしない。
「じゃあ、…また」
声の主は室井君だった。もう歩き出していた。
「あ、あの、困らないのですか?」
室井君は…。だって、雨、降ってるのに。これから強くなったら濡れてしまうでしょ?
「俺?全然です。小雨だし、濡れる程じゃない。きっともう、あがりますから」
だったら、私も大丈夫じゃない?
早歩きになった室井君の体は振り向き振り向き、言葉を繋いだ。少し遠くなりつつあった。
「そうなんですか?」
少し声に力を込めたつもりだ。聞こえた?
「はい、そう!だから、遠慮なくです」
分かった。好意は無下にしてはいけない。
「有り難うございます、じゃあお借りしますね、でもこれ…」
私…返せるか、分からないんだ。
「大丈夫、大丈夫です。要らないから。いいです持って帰ってください」
私、また、どこか見てたんだろうか。それとも、馬鹿正直に困り顔をしていたのだろうか。きっとそうだ。
「はい、分かりました、…持って帰ります」
雨雲は直ぐ消えてなくなる、改めて見直した画面はそう示していた。
傘、わざわざ?…でもないか。こっちは彼の帰り道?まだ店に居たのかな。姿はなかったように思ったけど。
どこかよその店で一休みでもしてたのかもしれない。それこそ、一緒にあがったバイトの人達とどこかで喋っていたのかもしれない。
あのくらいの年齢のときって話しても話しても話しつきない頃だ。
アーケードの端まで来たところで雨が降っていることに気がついた。
大丈夫だ。雨は弱そう。霧のような雨だ。
天気予報め…今日、雨が降るなんて出てなかったのに。でも最近は予報がめっきり当たらない。急に降りだしたり、降るはずが凄く天気が良かったり。…だからね、それが分かってるなら折りたたみ傘くらい持っときなさいよってことだ。
心配なのは帰って駅に着いてからのこと。
その頃には止んでるといいんだけど。
天気図…雨雲はどうなってるだろう。
スマホを取り出して今からの雨雲の動きを見てみようと思った。
「猛家さ~ん」
…ん?
「猛家さん?」
え?
後ろから声がした、気がした。なんだか分からないけど呼ばれてる。心臓がうるさくなった。確かにタケウチさんと聞こえたような。……でも、こんな時間だ。そもそも私の知り合いなんてここに居ないだろうし。きっと似た名前の…聞き間違いだ。そうだ、違うタケウチさんかもしれない。
…て、辺りに人が居ない。ショルダーバッグの肩紐を無意識に両手で掴んだ。
「猛家さん」
やっぱりだ、タケウチさんて聞こえる。返事した方がいいか迷った。恐いっていうのもあったから。振り向けない。棒立ちだ。
いきなり横から黒い棒が出てきた。あまりに突然で声が出なかった。…えっ?
「どうぞ」
「わっ、え゙っ!」
「え?ハハハ、そこは普通…」
…びっくりした。
「…どちらかと言えばキャーって言うところですよね…」
心臓がまだ跳ねたままだ。
「ハハハ、驚きました?すみません、変な声、出させてしまいましたね」
確かに驚きしかなかった。
「ハァもう……本当、…驚きました。それに…はい、恥ずかしいです。それからごめんなさい。私なんかを呼ぶ人なんか居ないと思ったから、こんな時間だし恐かったし、なかなか振り向きもせず返事もしなくて。あ、言い訳ばかりして、…ごめんなさい」
「あ、そんなのいいですよ。こっちも呼んだら驚かせちゃうだろうなって思ってましたから。これ、使ってください」
黒い棒だと思った物は傘だった。
「あ、でも」
正直、戸惑った。
「遠慮せず、とにかく使ってください。可愛い代物ではないですけど。はい。お疲れ様でした。では、おやすみなさい、気をつけて帰ってくださいね」
手を出さなかったから、そう言って傘は押し付けられてしまった。
「あ、あ、でも…」
でも、でも、ばっかりだ。はっきりしない。
「じゃあ、…また」
声の主は室井君だった。もう歩き出していた。
「あ、あの、困らないのですか?」
室井君は…。だって、雨、降ってるのに。これから強くなったら濡れてしまうでしょ?
「俺?全然です。小雨だし、濡れる程じゃない。きっともう、あがりますから」
だったら、私も大丈夫じゃない?
早歩きになった室井君の体は振り向き振り向き、言葉を繋いだ。少し遠くなりつつあった。
「そうなんですか?」
少し声に力を込めたつもりだ。聞こえた?
「はい、そう!だから、遠慮なくです」
分かった。好意は無下にしてはいけない。
「有り難うございます、じゃあお借りしますね、でもこれ…」
私…返せるか、分からないんだ。
「大丈夫、大丈夫です。要らないから。いいです持って帰ってください」
私、また、どこか見てたんだろうか。それとも、馬鹿正直に困り顔をしていたのだろうか。きっとそうだ。
「はい、分かりました、…持って帰ります」
雨雲は直ぐ消えてなくなる、改めて見直した画面はそう示していた。
傘、わざわざ?…でもないか。こっちは彼の帰り道?まだ店に居たのかな。姿はなかったように思ったけど。
どこかよその店で一休みでもしてたのかもしれない。それこそ、一緒にあがったバイトの人達とどこかで喋っていたのかもしれない。
あのくらいの年齢のときって話しても話しても話しつきない頃だ。