【仮】イクツニナッテモ
「傘に」

「そうです。傘に入れてました」

「あー、…なんだか、ごめんなさい、雨が止んでて。貸してくれたのに、使うこともなかったかって思って、何も、広げてもみなくて」

「いやいや、それは大丈夫、いいんです。雨、降ってなければ傘は広げないから」

「…それ」

「慣れない仕事をしてしんどかっただろうと思って、ちょっとの疲労回復のため?ハハ、プロテインで甘いものってことで」

あーごめんなさい。

「改めて手渡すのもちょっとって思って、やり慣れないことしちゃったんですよね」

「頂きます、これ」

私は彼の手の中にあるその細長い袋に手を延ばした。

「いいですよね?もらっても」

「あ、勿論です。そのための物てすから、どうぞどうぞ」

「有り難う、…嬉しいです」

その気遣いが。

「大事に食べます」

「そこは食べちゃうんだ」

え?違った?

「わぁ、大事に取って置きますー、じゃないんだ、ハハハ」

「え?ごめんなさい、でも、消費期限てあるから」

え?また間違えた?

「ハハハ、勿論です。食べ物なんだから、目的通り、食べてもらうのが一番です」

いいのよね。好意は無下にしない方が。

「そういうことなんです。では、美味しく、頂いちゃってください。ごめんなさい、引き留めて。でも、良かった」

「わざわざ有り難う」

あ、言葉のチョイス、大丈夫だったかな。わざわざって。変じゃない?
言ったあとで、なんだか、突き放したようにならなかったか心配になった。

「あの、さっきの女の子は彼女?」

プライベートに踏み込んでしまった。聞くつもりもなかったのに、自分の口にした言葉で不安な気持ちから余計なことを口にしてしまっていた。

「あー…」

「あ、いいの、いいの、ごめんなさい、関係ないおばさんが余計なことを」

ちょっと話をして、馴れ馴れしくなったと思われたかもしれない。

「…彼女か。どうなんですかね」

……。
彼女だとしても今はさっきのことが原因で元になってしまったかもしれない。
余計なことを口走ってしまった。

「なんて答え方をされても、困りますよね、 実際」

「ごめんなさい、本当、部外者が立ち入ったことを」

もう、気まずくて、何て言ったら良いのか分からなくなった。

「そろそろ戻らないと、乗り遅れちゃいますね」

あ、電車の時間。
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