【仮】イクツニナッテモ
そんなこと心配ない、まだ大丈夫よ、という間柄でもない。気まずさの解消に彼が発してくれた言葉に従うのが正解だ。

「あ、そうね、急がなくちゃ」

「では」

「はい、有り難うございました」

一口も飲まずに握りしめたまま、立ち上がった。

「色々、上に上がれる通路、ありますよね」

「あ、はい、あっちこっち、上がれます」

「じゃあ、俺はここで」

「はい、では気をつけて帰ってくださいね」

「それは俺の言葉です。猛家さん、夜遅いから、気をつけてくださいね」

「有り難う。……じゃあ」

「はい、おやすみなさい」

「…おやすみなさい」

躊躇う気持ちもあったが背中を向けて直ぐ歩きだした。
なんだか、視線を感じたが、振り返るのはやめようと思った。
受け取ったプロテインパーをバッグにしまった。
…コーヒー、これは飲まずに置いておくなんてことは出来ない代物。

ホットだったソイラテも握る手にはそこそこに冷めていた。
少し口をつけてみた。熱くない、飲める。
あまり、歩きながら飲むということはしないのだが。
誰かと一緒で、ストローごしに飲むのでもない。
物凄く行儀が悪いような気がしたが、そのまま飲み続けた。
改札までには飲み干せた。
ゴミ箱はない。
ハンカチにくるんでバッグに入れた。

プロテインパー、か……。
全く気がつかなかった。
なんて、気の利くことをしてくれていたのやら。
なのに私は何も知らず、気がつきもせず、黙って傘を置いてきただけだった。

そのことも、ちょっと話しておきたかったな。置いていたけど大丈夫だった?とか、要らないって言ってくれていた物を返すようなことをして、それは良かったのか。
気になることはあったのに。
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