【仮】イクツニナッテモ
私だって随分、躊躇したんだから。
ここに至るまでかなり勇気がいった。
空いた時間に出来るバイト。所謂、スキマバイト。
当たり前のことだけど、時間帯が丁度良くて応募した。勿論、駄目元で。それがまさか、即決するとは思ってもみなかったけど。
普段の私は派遣で仕事をしている。
週休二日、時給で、だ。勿論ボーナスなどという心踊る代物は無い。
時給はそれほど高くはないが、一般的に言ったら、そこだけで生活出来ないことはない。贅沢は出来ないけどって領域。基本的な暮らしは十分出来る収入はあった。
『未経験者歓迎、幅広い年齢の方、働いています』
募集の欄で良く目にする文字の羅列。
うん、確かに…。書いてある。だからって、鵜呑みにしてはいけないのがこの欄の文言だ。現実は、そう上手くはいかないことを私は知っている。嫌というほどにだ。
この文言を純粋に信じて、面接に行って嫌な思いをして帰って来たことがある。行かなきゃ良かったって。
「ご覧の通り、うちは若い子が働いてる店なので」
開口一番、そう言われた私は何と言葉を返したか覚えていない。敢えて言うとは、だからそういうことだから察しろよ、ってことだ。だったらなんで幅広い年齢の、なんて書いてあるの。私の理解が間違ってるの、幅広いってなに?
覚えていないというより、何も返さなかったような気がする。ただ、なんだバカヤローって、心で叫んだ記憶はずっと鮮明に覚えている。
履歴書は不要な代わりに記入してくださいというシートを渡され、埋めるだけ埋めて担当者を、呼び出しブザーで呼んだ。
「出来ましたか?…はい、有り難うございました。結果は二日以内に、電話かメールで連絡させていただきます。連絡がなければ今回は無しということで…」
「すみません、私、いいです、もう、いいです。だから、連絡とかも」……結構です。もう帰りたい。ここから早く出たい。
面接担当者の言葉が終わるのも待たず、食い気味で断りを入れた。
仕返し?みたいに向こうも返してきた。なんだよオバサン、て思ったに違いない。
「あー、分かりました。では、本日は有り難うございました。…ふぅ」
大きなため息をつかれた。
「貴重な時間を、お忙しいのにすみませんでした、失礼します」
そうだ。結果として彼にとって時間を無駄にさせてしまったのだ。それは間違いない。
「いえ、また是非、ご都合が合いましたらご連絡ください、お待ちしてます」
ご都合て、なに?ご都合がついたときだってこの年齢ですけど?いや、それ以上になってますけど?
…嘘だ。間違いない社交辞令。こういう場合の決まり文句なんだ。本当はこっちから断ってくれてラッキーだと、貴方、今、思ってるでしょ?形だけでも面接もしなきゃいけないのに…なんで応募なんかしてきたんだよ、面倒臭いな、てね。
綺麗事。嘘。本音と建前。そんなものだ。
無防備に年齢を考えるなんてしなくても良かった頃と、比べものにならないほど、世の中は若くなくなった人間にシビアだ。