【仮】イクツニナッテモ

手洗いを入念に済ませ、アルコール消毒をした手に手袋をした。乾ききっていない手はゴム手袋をこれでもかってくらい拒絶した。

「ああ、ハハ。先にこっちの透明なのをしてからにする?そしたら入るから」

おー。確かに。透明な手袋は大きめですんなり指が入った。その上にブルーのゴム手袋をはめた。ピシッと締まった。

「じゃあ、猛家さんの今日の仕事は、注文が入ったらここから品出しをして頂きます」

「はい」

冷蔵庫の前に立った。中が見えていた。高い位置にプリンターのような小さな物がかった。
オーダーが入ったら印字された紙が出てくる。それを見て、食材が入っているトレーを冷蔵庫から取り出しオーダー用紙を挟み込んでおく。席番が印字されているのでそこに持っていく。まずはそれをお願いします、だった。
その内、空いた食器をを下げてもらったりします、と。
フーッ。…さて、と。覚えなきゃ。
ガラス扉の冷蔵庫にはどこに何があるのか一目で分かるように文字が記入されたラベルも貼ってあった。それを確認しながら出せば間違いようはないはずだ。とはいえだ。初めての仕事。今までの自分を思い出してみれば、焦ることは間違いない。
その、場所を探すのにあたふたとしてしまいそうだ。まずは場所を把握することだ。少しでも早く覚えて手早く出せるようにせねばだ。

フロアの裏となる厨房には色々な貼り紙がしてあった。その全てが物珍しかった。
注意書しかり、予約内容が書き込んであるホワイトボードしかり。
お客としてしか利用しなければ目にするものではない物だ。
ここに今日来ていなければ、飲食店の経験が全くない人間として一生を終えていたかもしれない。少し大袈裟かもしれないけど。

ピー…ピ、ピ。
独特な甲高い機械音がした。オーダーが入ったのだ。心臓が一瞬で高鳴った。
吐き出されたシートは落ちない程度のカットが入っており、また次のシート、また次のシートと、矢継ぎ早にプリントされては吐き出され垂れ下がった。うわ…大変だ。注文がドンドン入ってきてる。

「はい、オーダー入りました。お願いしま~す」

「は~い」

合わせたように伸ばした返事をした。
人生で初めての、未経験の緊張を感じた。
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