【仮】イクツニナッテモ
「あ、危ないですよ、滑りやすいんで」

「は、はい」

確かに。それ用ではないスニーカーの靴底が若干滑った気がした。また少し汗が出た。

反対側にある流しの横には洗い上げた食器が積み上がっていた。

「下げてきた食器を運ぶ、あれ、あの中は結構油っぽくなった汁が溜まってたりして、それが床を汚すこともあるんで、とにかく、滑ります。慌てないで。足元、気をつけて歩いてください」

あっちもこっちも、足元も、ボーッとしてたら大惨事になってしまうってことだ。

「有り難うございます、気をつけます」

「はい、気をつけましょう」

私をオバサンと言っていた子と店長と丁度中間くらいの年齢かな。
どちらにしてもここに私より歳上はいないだろうけど。

「ん?あれですよ。席の番号はあれを見て確認してください。こっちは、こっち。向こうは向こうに、場所通りに書いてありますから」

よく見たらこっちのフロアと向こうのだ。なるほど。

「はい」

自覚なく、またよく分からない場所を見てたのかもしれない。初めての場所は何だかキョロキョロ見たくなってしまうから。理解出来てないと思われたのだろう。

「大丈夫ですね。じゃあ、持って行ってください」

積み上げられた食材の入ったトレーを手にした。

「はい」

「明るく挨拶してください」

「はい」

ん゙ん゙。頑張って、声、高めに出さなきゃだ。

「配膳が多くなったら、このAIのロボットも使ってください。これを楽しみにしてる子供さんも居るので。近くを通るだけでも喜ばれるので。席は特に気にしなくて大丈夫です、子供さんが居る席とか確認しなくて。どこでも良いです」

「はい、分かりました」

わー、配膳するロボットだ。
音楽を流しながらインプットされた席までちゃんと運んでいく。
こんな世の中になっていなければまだ登場してなかったかもしれない代物かもだ。んー、でも、この業界も人手不足らしいから、いつかは人にとって変わる時が来るんだろう。…可愛い…けどね。
< 8 / 24 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop