【仮】イクツニナッテモ
「…フーッ」
「お疲れ様です、どうですか?…どうぞ?」
え?あ。
「すみません、有り難うございます…いいんでしょうか?……」
目の前にお水の入ったグラスが置かれた。
氷が入れられていた。
「はい。ちょっと落ち着いたんで一息ついてください。厨房近くて蒸し暑いし、思ってる以上に喉って渇いてるものなんですよ」
「有り難うございます、頂きます………美味しーい…」
心から出た言葉だった。正直、普段、私はあまり水分補給というか、仕事中に飲んだりしない。だけど、気がつけばゴクゴクとグラスの水を飲み干していた。お水がこんなに美味しいなんて…。
「入れてもらったからですね」
そんなこと、言うつもりもなかったけど。自然と心から出た言葉だった。
「ハハハ、ただの水ですよ、それ」
そうだろうけど。でも、有り難かった。
「なんだか、まだ慣れなくてすみません、もたついて」
「いや、そんなこと。当たり前ですよ、今、やり始めたばっかりなんですから、今の今じゃないですか」
「そうですけど」
そうなんだけど、日頃からじっと見なくてもどこに何があるか分かってるような人達からしたら、私の品出しってトロトロしてるって映るだろう。忙しいと特にイラつかせてるかもしれない。
「大丈夫ですよ、出来てますから。ちゃんと出来てます」
有り難うございます。
「今からは、食器を下げながら、出しながら、でお願いします。あの深い桶のようなのを持って行って下げてくる感じです。またピークが来たら手伝います」
「分かりました」
「大丈夫です」
「は、い」
「大丈夫です。…大丈夫、です」
「はい…」
直ぐ顔に出るから。きっと不安な顔をしていたんだと思う。マスクがあっても目が物語っていたんだろう…ハァ…、いい歳をして…情けない。顔くらい、作りなさいよね。せめて目くらいは笑ってるように見せるのよ。