キスは好きな人とするものです
困ったように彼は笑っているが、それでも私にはわからなかった。

「キス……とは、唇をあわせるあれですよね?」

「そう、だねぇ」

軽く困惑気味に彼が返事をする。

「それの〝券〟とは、これがあれば小野瀬さんとキスができる、ということですか?」

「うん、そうだよ」

ようやくわかってくれたのかと彼はぱーっと顔を輝かせたが、まだ謎は残っている。

「小野瀬さんとのキスは、〝チケット制〟なんですか?」

これは、そういう意味だよね?
そして、モテ男でいつも女性から囲まれている彼なら、そんなものが必要なのかもしれない。

「あー、うん。
そうだねぇ……」

なぜか彼は伏せ目になり、その瞳はきょときょとと忙しなく動いていた。

「でも、キスって好きな人とするものじゃないんですか?
それとも、小野瀬さんは好きじゃない人ともキスできる?」

「うっ」

びくりと大きく身体を震わせ、小野瀬さんが言葉を詰まらせる。

「そ、そりゃ、好きな人としたいよ?」

「でも、このチケットがあれば、誰でも小野瀬さんとキスできるんですよね?」

「……そうだね」

がくっと、彼の肩が大きく落ちた。
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