キスは好きな人とするものです
しかし、私にお礼だと気軽に二枚もくれたし、きっと他の女性にもこんなふうに配っているはず。
じゃあ、好きな人とじゃなくてもするのか、――それとも女性ならみんな好き、とか?

「……でも、それはキスしたいと思った人にしか渡してないよ」

眼鏡の奥から小野瀬さんが、ちらっと私をうかがう。
もし、その言葉に嘘がないとすれば。

「なら、チケット制にする意味があるんですか?」

彼とキスしたい人がたくさんいて、それを捌くためならチケット制はわかる。
しかしキスしたい人としかしないのならば、そうやって整理する必要はないはずだ。

「だーかーらー」

ガシガシと後ろ頭を掻いたかと思ったら、小野瀬さんが迫ってくる。
気づいたときには壁に追い詰められていた。

「俺は好きな人としかキスしたくないし、それはキスしたい人にしか渡してないの」

左前腕を壁につき、小野瀬さんが私を見下ろす。

「これがどういう意味か、まだわかんない?」

彼の右手が私の顎にかかり、上を向かせる。
強制的に視線をあわせさせられ、いつもにもなく真剣なその瞳に目は逸らせなくなった。

「その」

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