キスは好きな人とするものです
彼の言い分を整理すると、好きな人にしかキス券を渡していないということになる。
で、それを私が渡されたというのは。
「小野瀬さんは私がす……」
そこまで言ったところで、彼の長い人差し指にその先の言葉は止められた。
「それで。
これ、使う?」
私の手の中から名刺――キス券を取って人差し指と中指で挟み、彼が得意げに右の口端を持ち上げてにやっと笑う。
それを、なんの感情もなく見ていた。
「その。
小野瀬さんはキスしたいのかもしれませんが、私は小野瀬さんが好きではありませんので」
「ああ、そう……」
一瞬前とは反対に、小野瀬さんが項垂れる。
「鶴岡さんって、そういう人だよね……」
まるで私が悪いみたいな言い草だが、キスとは好きな人とするものだと小野瀬さんだって認めたではないか。
ならば、私が彼とキスしたくないのは当たり前だ。
「でもそういう真面目で、融通が利かなくて、鈍いところが好きなんだよね、俺」
小野瀬さんがなぜか眼鏡を外す。
顔が近づいてきてなにを、とか思っているあいだに唇が重なった。
「……なに、考えてるんですか」
どきどきと心臓の音がうるさい。
で、それを私が渡されたというのは。
「小野瀬さんは私がす……」
そこまで言ったところで、彼の長い人差し指にその先の言葉は止められた。
「それで。
これ、使う?」
私の手の中から名刺――キス券を取って人差し指と中指で挟み、彼が得意げに右の口端を持ち上げてにやっと笑う。
それを、なんの感情もなく見ていた。
「その。
小野瀬さんはキスしたいのかもしれませんが、私は小野瀬さんが好きではありませんので」
「ああ、そう……」
一瞬前とは反対に、小野瀬さんが項垂れる。
「鶴岡さんって、そういう人だよね……」
まるで私が悪いみたいな言い草だが、キスとは好きな人とするものだと小野瀬さんだって認めたではないか。
ならば、私が彼とキスしたくないのは当たり前だ。
「でもそういう真面目で、融通が利かなくて、鈍いところが好きなんだよね、俺」
小野瀬さんがなぜか眼鏡を外す。
顔が近づいてきてなにを、とか思っているあいだに唇が重なった。
「……なに、考えてるんですか」
どきどきと心臓の音がうるさい。