キスは好きな人とするものです
それでも彼を、睨みつける。

「キスしてみたら、好きになるかもしれないだろ」

眼鏡をかけ直し、ようやく小野瀬さんは私から離れた。

「もう一枚、いつ使ってもいいからなー」

軽い調子で言った小野瀬さんが給湯室からいなくなり、私はその場に腰が抜けたかのように座り込んだ。

「……はぁーっ」

抱え込んだ膝の中に顔をうずめる。
息が苦しいほど心臓の鼓動が速い。
顔が、燃えているんじゃないかというほど熱い。

「……なに、考えてるんだろ。
小野瀬さん」

周りからは欠点だと言われる点を、彼は好きだと言ってくれた。
それは嬉しくもあるが、同時に真意を測りかねる。
まさかあの彼が、こんな私に本気……だとは考えられない。

……うん。
からかわれたんだよ、きっと。

終業のベルも鳴っているし、気を取り直して立ち上がり、席へと戻る。
机の上に置いたままになっていたキス券に目が留まり、また顔から火を噴いた。

……いや、ない。
ないから。

それを手に取り、破ろうとして止まる。
これってもしかして、小野瀬さんなりのラブレター……?
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