天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
 純菜は壱生の顔色を見てほっとした。昨日は少し休んだだけでその後実家のトラブルに巻き込んでしまった責任を感じていた。

「よかった。昨日よりずっと元気そう」

「ありがとう。だけど〝よかった〟はないんじゃないのか。準備しなくていいのか? 今日は全体ミーティングの日だろ?」

「あぁああああ。そうだった。どうしよう」

 全体ミーティングの日は、準備があるのでいつもよりも早く出社しないといけない。壱生の部屋は純菜の部屋よりも事務所に近いがそれでも遅刻ギリギリだ。

「とりあえずシャワー浴びれば? 車なら十分間に合うから」

「あ、そういえば……私自分でここに?」

 時間がなくて焦っていた気が回らなかったが、純菜は自分に与えられた部屋のベッドで寝ていた。

「いや、俺が運んだ。抱き上げても全く目を覚まさなかったからな」

「あ、え。あの……本当にすみません」

 布団につく勢いで頭を下げた。昨日から本当に壱生には世話になりっぱなしだ。

 壱生は純菜の髪をクシャッと混ぜて笑った。

「別に。それに俺も昨日は色々と助けてもらったし。正直寝不足で倒れる寸前だったから、家まで来てくれて助かった。ほら、バスとランドリーの使い方教えるから来て」

 純菜は急いで壱生の後に続いた。

 ポーチの中に入っているものでとりあえずの化粧をして出勤の準備をした。

「眼鏡……は、リビングだっけ?」

 寝室にはなかったので、おそらく昨日壱生に運んでもらうときにおいてきたのだろう。

 ものすごく目が悪いわけではないので室内を少し移動する程度なら問題なく歩ける。純菜がリビングに向かうと壱生は身支度を整えて新聞を読んでいた。

「あの、バスルームありがとうございました。鮫島先生は使わなくてよかったんですか?」

「あ、俺は寝室のシャワーブースを使ったから」

「寝室に、シャワーブースがあるんですか?」

 なんという贅沢な造りになっているのだ。純菜は自分が部屋を探すときにバストイレ別になっている物件を探すのに苦労したと言うのに。

「そんなに驚くことか? 寝室にあった方が便利だろ。何かと」

「ん? どうしてですか? あ、湯冷めしないとか?」

 真剣に答えたつもりだったが壱生は呆れた顔で笑っている。

「とんだお子様だな。まあ、そのほうが君らしいか。これ食うか?」
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