天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
 ダイニングにある紙袋を差し出された。中身を確認すると美味しそうなサンドイッチが入っている。

「美味しそう! いいんですか?」

「ああ、さっき下で買ってきた」

 マンションにある商業施設には二十四時間営業のスーパーをはじめ、早朝から開いているベーカリーやカフェもある。そこでわざわざ買ってきてくれたらしい。

 昨日から世話になりっぱなしで申し訳なく思う。

「何から何まですみません」

「君はこのあたりの事、まだあまり詳しくないだろう。気にしないで早く食べないと遅れるぞ」

「あ、はい」

 紙袋に入っていたサンドイッチとオレンジジュースを取り出して、壱生の向かいに座って食べる。

「ん、おいしい!」

 クロワッサンのサンドイッチはパンがサクサクで、中の卵フィリングはマスタードが少しきいていて美味しい。フレッシュトマの酸味もマッチしていくらでも食べられそうだ。 

 壱生も同じものを食べながら、視線は純菜の方へ向けている。

「なあ、矢吹。お前、眼鏡やめたら? 美人なのに」

 夢中で食べていた純菜は壱生の言葉に驚いてむせる。

「ごほっ、もう。いきなり何言ってるんですか? からかわないでください」

 急いでダイニングの上に置いてあったティシュで口元を拭う。そしてそうしながらさりげなく壱生の視線から逃れた。

「別に本当のことだから言ったんだろ。今までなんで隠してたんだ?」

「べ、別に隠してなんていません。私は眼鏡が好きなんです」

 そう言い訳したけれど本当は嘘だった。好きでも嫌いでもないというのが正直なところだ。一度中学の時にコンタクトにしたことがあったのだが「大女が色気づいた」とからかわれてすぐにやめてしまったのだ。

 苦い思い出がよみがえってきて慌てて振り払い、立ち上がりリビングのローテーブルの上に置いてあった眼鏡をかける。

「なんだもう終わりか。まあ、いい。俺以外の奴が君の素顔を知らないっていうのもなんだか優越感だ」

 頬杖をついたまま純菜を見たままにっこりと笑った。その笑顔の破壊力に心臓がバクバクと大きな音を立てそれと同時に顔が赤くなる。

 どういう意味で言っているの? いや、深い意味はないんだろうけど、きっと。誤解したら恥ずかしい思いをするのは自分なのよ。

 コホンと小さく咳をして、気持ちを落ち着ける。
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