天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
「安心しろ。どんなに上に掛け合おうが、君は俺のアシスタントだよ」
「な、なんでそんなこと決まっているみたいに言うんですか?」
「俺、君のこと気に入ってるもん。だから今度食事に行こうか?」
あっけらかんとした態度にあいた口がふさがらない。
「そ、そんな理由で?」
「むしろそれ以外の理由いる? っていうか食事誘ったのになかったことにされてる?」
純菜は呆れかえってしまって、口をパクパクと動かすだけで言葉が出なかった。
「もうそろそろ諦めろ。往生際が悪いぞ」
「私もそう思う」
葵にまでそんなこと言われて、味方がひとりもいない。
壱生と葵は「ね~」なんて声を合わせている。
「さてと、俺出てくる。直帰の予定だからよろしく」
「え、でもひとつ資料を確認してほしかったんですけど」
彼のブースを指さす。今朝出した資料が未確認のはずだ。
「ん? ちゃんと見たから俺のデスクからとってきて進めておいて。もしわからなければ国見さんに聞いて」
話を聞いていた葵が頷いている。
え、嘘。いつの間に?
驚いている間に壱生は立ち上がり、事務所を出ていこうとする。
「あの、電話だけは出てくださいね!」
純菜の必死の願いに「わかった~」と軽い返事をして彼の背中が扉の向こうに消えた。
時間は守らない、真面目に物事を捉えない。顔が最高にいいこの男。恐ろしく仕事が早い。それでいて依頼人や相手方の心を掴むのがうまい。
壱生は日本三大法律事務所のひとつである【榎並(えなみ)総合法律事務所】で、多く在籍する弁護士の中で間違いなくエースだった。
「はぁ。あの調子じゃきっと電話には出てくれないだろうな」
「まあ、何かあったら私もフォローするから。それに鮫島先生のアシスタントはみんなやりたがるんだから、ありがたいことじゃない」
「全然ありがたくないです」
みんながやりたがるエースである壱生のアシスタントを純菜がしているのには訳があった。
彼は……モテすぎるのだ。
***
壱生は見た目もさることながら、その経歴も素晴らしかった。大学在学中に弁護士資格を取得して司法修習を受け、この榎並総合法律事務所に就職。
社内の留学制度を使いニューヨークに留学。そこで弁護士資格を取得し提携先の弁護士事務所で大型のM&Aを成功させ、惜しまれつつも二年前に帰国した。
「な、なんでそんなこと決まっているみたいに言うんですか?」
「俺、君のこと気に入ってるもん。だから今度食事に行こうか?」
あっけらかんとした態度にあいた口がふさがらない。
「そ、そんな理由で?」
「むしろそれ以外の理由いる? っていうか食事誘ったのになかったことにされてる?」
純菜は呆れかえってしまって、口をパクパクと動かすだけで言葉が出なかった。
「もうそろそろ諦めろ。往生際が悪いぞ」
「私もそう思う」
葵にまでそんなこと言われて、味方がひとりもいない。
壱生と葵は「ね~」なんて声を合わせている。
「さてと、俺出てくる。直帰の予定だからよろしく」
「え、でもひとつ資料を確認してほしかったんですけど」
彼のブースを指さす。今朝出した資料が未確認のはずだ。
「ん? ちゃんと見たから俺のデスクからとってきて進めておいて。もしわからなければ国見さんに聞いて」
話を聞いていた葵が頷いている。
え、嘘。いつの間に?
驚いている間に壱生は立ち上がり、事務所を出ていこうとする。
「あの、電話だけは出てくださいね!」
純菜の必死の願いに「わかった~」と軽い返事をして彼の背中が扉の向こうに消えた。
時間は守らない、真面目に物事を捉えない。顔が最高にいいこの男。恐ろしく仕事が早い。それでいて依頼人や相手方の心を掴むのがうまい。
壱生は日本三大法律事務所のひとつである【榎並(えなみ)総合法律事務所】で、多く在籍する弁護士の中で間違いなくエースだった。
「はぁ。あの調子じゃきっと電話には出てくれないだろうな」
「まあ、何かあったら私もフォローするから。それに鮫島先生のアシスタントはみんなやりたがるんだから、ありがたいことじゃない」
「全然ありがたくないです」
みんながやりたがるエースである壱生のアシスタントを純菜がしているのには訳があった。
彼は……モテすぎるのだ。
***
壱生は見た目もさることながら、その経歴も素晴らしかった。大学在学中に弁護士資格を取得して司法修習を受け、この榎並総合法律事務所に就職。
社内の留学制度を使いニューヨークに留学。そこで弁護士資格を取得し提携先の弁護士事務所で大型のM&Aを成功させ、惜しまれつつも二年前に帰国した。