天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
 壱生と言い合いをしても一向に勝てないことはわかっている。それでも唇をわずかに尖らせて抗議した。

「食べたらちょっと時間くれ」

「はい。構いませんけど」

 トラブルの件について話をするものだと思っていた。しかし食事を終えて片付けを済ませた純菜はリビングに広げられたものを見て首をかしげる。

「あの、そういう趣味があったんですか?」

 テーブルの上に広げられているのは、化粧品や女性ものの洋服だ。純菜のものでないとなると壱生の所有物となる。

「は?」

「え、違うんですか?」

 驚いて壱生の顔を見ると、呆れた様子で彼も純菜を見ていた。

「これはお前のだろ。買ってきたんだ」

「私? どうしてですか?」

「俺が着せたいから。とりあえずほら着替えて」

「何、え?」

 服を押し付けられて、背中を押されて自室に追いやられる。

「私、服なら持ってますから」

「いいだろ、別に」

 とまどう純菜だったがそのまま部屋に押し込まれてしまい、扉を閉じられた。

 きっと着替えなければ納得しないだろう。純菜は手にしたワンピースを体に当てて鏡を見てみる。

 バルーン袖のリブニットワンピはバックリボンが印象的だ。ネイビーなので形はかわいらしいが落ち着いた印象に見える。

「かわいい」

 素直にそう思えた。自分では絶対選ばないワンピースだが、色を純菜が好みのネイビーを選んでくれているのでそこまで抵抗なく着られる。

 今着ている服を脱いで、袖を通して見る。着替え終わると似合っているかどうか不安な気持ちで鏡を覗き込んだ。

「あ……いいかも」

 色は落ち着いているが形が凝っているのでいつもよりも随分華やかに見える。ひとつに束ねていた髪をなんとなくほどいてみた。

 こっちのほうがいいみたい。

 普段あまり髪を下ろさない純菜だったが、こっちのほうがよりエレガントに見えてワンピースにマッチしている。

「おーい。着替えたら出てこい。それとも俺が行こうか?」

「すぐ行きます!」

 壱生に焦らされて慌ててリビングに戻る。

「あの、どうですか?」

 普段は身に着けないワンピース。それも壱生が選んだものだ。彼の期待に応える事ができているのか自信なく姿を見せる。

「……ふーん」

 思いのほか反応が薄い。自分ではいいと思ったものの合格点には達していなかったのかと残念に思う。

「やっぱりさっきの服に着替えてきます」
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