天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
「壱生……さん」

「そうだ。もう一度、呼んで」

「壱生……んっ」

 呼べと言ったのは彼なのに、すぐに唇を奪われてそれ以上何も言えなくなる。抗議したいけれどキスに翻弄されてそれどころではない。

 ドキドキと心臓が破裂しそうなほど脈うっている。体の振れていないところまで熱くなっていく感覚にひざが震えた。

「純菜、 可愛い」

 やっと解放されたと思った後、耳元で低く甘い声で名前を呼ばれて純菜はとうとう立っていられなくなりそれを壱生が支えた。

 顔があり得ないくらい熱い。赤くなっているのがわかり慌てて壱生に見られないように両手で顔を覆った。

「なにそのかわいいしぐさ。やっぱり俺純菜と結婚するって決めてよかった。ますます興味がわいてきた」

 ぎゅっと強い腕に抱きしめられた。密着する体に戸惑うけれど顔を見られないと思うと少しほっとした。

 
 キスの余韻に引きずられすぎた純菜は気が付いた時には車に乗せられて実家に向かっていた。

 再度ミラーに移った自分の唇に、壱生からもらったグロスが塗られている。

 連鎖的にさっきのキスを思い浮かべそうになって慌てて視線を逸らせた。

 純菜がひとりで思い出しドキドキしている横で、壱生は機嫌よさそうに車を運転していた。後ろの座席のクレートの中にはピッピがいる。

 三人で一時間ちょとのドライブだ。行先は実家でしかも借金のトラブルを解決するためだけど。

 壱生のスムーズな運転で実家までは予定より少し早く到着した。玄関のチャイムを押そうとすると、壱生のスマートフォンに電話がかかってきた。彼は素早く相手を確認する。

「まだ時間あるし、出てもらって大丈夫です」

「悪いな。本宮さんからだ。もしもし」

 すぐに電話にでた壱生からわずかに離れる。たとえアシスタントでも聞いたらいけない話があるかもしれないので、いつもと同じようにした。

 純菜は先にピッピをクレートから出して抱き上げた。その時点で他の動物の鳴き声がするのでそわそわしている。

「あとで、裏にある庭で遊ぼうね」

 純菜の父親が庭を簡易ドッグランと改築した。普段リードなしで走り回ることなんてあまりないので、ぜひ楽しんでもらいたい。

 ピッピを撫でながら待っていると、電話を終えた壱生が戻って来た。

「悪い。待たせたな」

「いいえ、本宮さんピッピと会いたがってましたか?」
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