天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
第四章 やっとやっとの婚姻届
第四章 やっとやっとの婚姻届
純菜はタブレットを横に置いて、鏡の中の自分に必死になって向かい合っていた。壱生がアメリカに出張していて帰国は明日の予定だ。
付き合い出して日の浅いふたりだから、寂しい思いはもちろんある。時差があるけれど時間を見つけて電話もくれたし、メッセージのやり取りも頻繁にしていた。
ただそれが物理的な距離を埋めてくれてすぐに会えるわけではない。その寂しさを埋めるように、純菜は今までしてこなかったことをしていた。
慣れないコンタクトに四苦八苦したあと、動画で初心者向けのメイクの仕方を勉強する。いくつか動画でおすすめされていたコスメも手に入れて、仕事から帰ったら動画を参考に練習していた。
壱生は純菜を可愛いというが、自分ではそう思えない。乃亜を見たときの圧倒的な敗北感は純菜自身が努力をしていなかったからそう思ったのかもしれないと思ったのだ。
本宮さんみたいになれるとは思わないけど……ちょっとでも綺麗になれるなら。
今までどんなことをしても、元の顔が変わらないのだからと思って努力してこなかった。
けれどこの間壱生にもらったグロスを塗ったときに、気持ちが浮上したのを感じた。もし少し努力するだけで、前向きな気持ちになれるのならばと始めて見たのだか、壱生の前でするのは恥ずかしいので、彼が出張中、不在の間に練習することにした。
「黒目の位置がここだから、このあたりからラインをひけばいいのかな」
アイラインのペンシルを手に少しずつ手を加えていく。
「少しずつ描いていくのが成功の秘訣っと」
動画の説明を口にしながら、注意深く手を動かす。
左右比べてみるとなかなか良いできなのではないかと思う。
「これで、壱生さんにもらったグロスを塗れば完成」
グロスの塗り方は一番に調べた。
「ん、いい感じ」
出来上がた鏡の中の自分ににっこり笑いかけてみる。
でもいざ見せるとなると恥ずかしいな。デートのときに披露する?
そんなことを考えていると、玄関から扉が開く音が聞こえる。そもそもオートロックなので、この部屋に入ってこられるのはカギを持っている壱生だけだ。
「え、嘘。ちょっと待って」
急いでメイク道具を片付けようとして、逆にぶちまけてしまった。
「あぁああああ!」
「おい、何騒いでいるんだ?」
急いでかき集めている姿を見られて、純菜は気まずそうに床から顔を上げて壱生を見る。