天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
 こんなセリフ彼しか言えないよね。

 見かけはパーフェクト、その上仕事もできて気遣いもできる。なにより純菜を特別大切にしてくれている。

 この人の隣にいられること、いまだに信じられない。

「実家はもうないけど、この土地にはいい思い出しかないな」

 純菜は小学生の彼がここを楽しそうに走り回っている姿を想像してますます笑みを深めた。

「あ、順番きた。ほら、賽銭」

 並んでいる間に準備していたなんてさすがだ。

「ありがとうございます」

 純菜は順番が来て壱生と一緒に賽銭を投げた。手を合わせ、目をつむる。

 色々と願掛けしたい気持ちはあるけれど……やっぱり一番は「壱生さんの隣にずっといられますように」これだけだ。

 その願いさえ叶えば、ずっと幸せでいられるような気がした。

 お参りを終えて脇にそれる。人とぶつかりそうになった純菜の肩を抱いた壱生に「大丈夫か?」と至近距離で聞かれて頷いた。

 さっそく効き目があったのかも?

 近づいた距離にドキッとしながらも、こうやって一緒にすごせることがうれしい。

「さて、予算はひとり千円な」

「え?」

「縁日の予算。子供の時は五百円だったけど、俺たち大人だから倍の千円な」

 さっと純菜の前に千円札二枚を差し出した。

「もしかして仕事に戻らなきゃいけない、って思ってる?」

「いいえ、実は帰りたくないなって思ってたんです」

「あはは、いいじゃん。せっかくなんだからその調子で楽しもう」

 盛大に笑った壱生が、純菜の手に千円札を握らせた。

「さあ、どれから行く?」

 まるで子供のように目を輝かせている彼に、またもう一度恋をしそうだ。こういうときに無邪気にはしゃげる彼の傍にずっといたいと思う。

「ん~まずは、じゃがバター食べたいです。さっきすごくいい匂いがしていたので」

「いいな。俺も腹が減った」

 ふたりで手を繋いで目的の屋台に向かう。屋台では「カップルかいいね~」なんておじさんにからかわれながら「大きいのちょうだい」という壱生さんに笑い、そのままふたりでベンチに座って食べた。

「熱いっ、でも美味しい」

 コクのあるバターにホクホクのジャガイモ。お腹がすいているのもあってふたりで夢中になって食べた。

「うまいな。子供のころも食べてたこれ」

「私も昔から大好きです」

「でも、ちょっと高くないか? 子供のころはもっと安かった気がする」
< 70 / 99 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop