天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
「たしかに……そうかも」

 ふたりで昔のことを思い出しながら、ジャガイモをほおばる。

「でも不思議ですよね。当時はまったく別のところに住んでいたのに、こうやって今はふたりでいるなんて」

「ん?」

「あ、ごめんなさい。なんでもないです」

 純菜は自分でも何を言っているんだと思って慌ててなかったことにしようとした。

「いや、そう思うと俺たちが一緒にいるのも奇跡みたいなもんだな」

 否定せずに自分の言葉を受け止めてくれた彼の顔をつい見つめてしまう。

「そんなふうに思ってくれて、うれしいです」

 自分の素直な気持ちを伝えるのが苦手な純菜は、耳の先まで赤くして壱生に感を伝えた。

「なに、赤くなってるんだ。かわいい」

「もう、やめてください」

 からかわれて余計に顔が熱くなる。

「そういう顔されると、キスしたくなるんだよな」

「し、神聖な神社でなんてこと言ってるんですかっ!」

 慌てる純菜を見て、壱生は余計に面白がる。

「別に〝したくなる〟って言ってるだけで〝する〟とは言ってないだろ?」

「それはそうですけど」

「そんなに純菜がしてほしいなら、しようか?」

「いえ、あの、結構ですから」

 慌てて距離を取ろうとするが、面白がった壱生が手を掴んで放そうとしない。

「もう、ほら! そろそろ行きますよ」

「え、もう少しいいだろ? あ、あっちにたこ焼きがある。行こう」

 立ち上がって手を引き歩き出す壱生の後を純菜は苦笑交じりについていった。

 思いのほかしっかりと縁日を楽しんだ後、このまま仕事をさぼって家に帰ろうという壱生を説得してふたりで駅に向かう。

 しぶしぶ応じる壱生を仕方ない人と思う一方、今までアシスタントだけ務めていたときには見られなかった彼の表情に親近感とときめきが増す。

 毎日加速度を付けて壱生のことを好きになっていることを自覚する。少し前までの自分からすれば考えられないことだ。

 それでも以前の自分よりも、今の自分の方が好きだと言える。

 壱生の横顔を見ながらそんなことを考えていると、ピッピと同じくらいの大きさの白いポメラニアンとすれ違う。

 ピッピ……元気にしているかな。

 突然離れてしまったので、どうしても気になってしまう。壱生が本宮家の秘書と連絡をとって元気だということは聞いているけれど、街中で犬とすれ違ったりしたときに思い出して少し落ち込む。
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