天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
「よかったね、矢吹さん」

 顔を上げると笑顔の葵と目が合う。

「ありがとうございます」

 こうやって周囲の人から祝福されるとは思わなかった。理解してくれる人もいるのだと思うとうれしい。

「それで、幸せ絶頂の矢吹さんが何に悩んでいるの?」

「それなんですけど、彼の誕生日にどうやってお祝したらいいのか悩んでいて。お休みなので何か特別なことをしてあげたいなぁって」

 初めての彼氏の初めて一緒に過ごす誕生日だ。日頃の感謝も込めてお祝いしたいと思っている。

「なるほどねぇ。せっかくなら初めての旅行なんてどう?」

「旅行ですか……いいかも」

 初めてのお祝いを旅先で。思い出に残りそうだ。

「ありがとうございます! 色々調べてみます。あの……ずうずうしいかと思いますが、プレゼント選びも手伝ってもらってもいいですか?」

「もちろん! 矢吹さんとこういう話できてうれしい」

「私こそ!いつもありがとうございます」

 もともと良くしてくれていた葵との距離がまた縮まった。壱生と恋愛することで自分の周りがいい方向へ変わっていくようだ。

 純菜は笑みを浮かべて、今の幸せをかみしめた。

 その日の仕事帰り、葵は早速純菜のプレゼント選びに付き合ってくれた。デパートに入って話をしながらぐるぐる回る。

「実は生まれて初めて男性に誕生日プレゼントを渡すんです」

「え~それは気合い入れて選ばなきゃいけないわね」

 葵は純菜よりも気合いを入れた。

「一般的なのは男性だとネクタイとか仕事で使うものかな?」

「なるほど」

「ネクタイだと特別な意味も込められるしね。恋人にはうってつけ」

 初めて聞くことに純菜は興味を示した。

「それってどんな意味があるんですか?」

「あなたに首ったけとか、夢中とかいう意味。昔から言うじゃない。知らない?」

「私そういうのには疎くて、女性に渡すプレゼントでも同じような意味のあるものってあるんですか?」

 この際だから参考のために聞いておこう。

「女性だと、口紅とかグロスあたりかな。男性が〝君にキスしたい〟っていう意味を込めて贈ることがあるって聞いたことがある」

「それは、聞いたことがあります」

 壱生からもらったグロスを頭の中に思い浮かべる。
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