天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
 あのグロスを塗ったときには必ずと言っていいほどキスされているような気がしないでもない。

 そんなことを考えると自然と頬に熱が集まって来る。

「ねぇ、その反応。もしかして鮫島先生にもらったの? 口紅」

「く、口紅じゃないです。グロスです」

「なによ、やっぱりもらったんじゃないのー!」

 あははと声を出して笑われて、ますます顔が赤くなる。

「鮫島先生もそんなかわいいことするんだね。まあ、仕方ないかぁ。そうやって赤い顔している矢吹さん、私から見ても可愛いもの」

「そんな……もうやめてください」

 恥ずかしくていたたまれなくなる。

「ほめてるのに。私はこれまでの矢吹さんも好きだたけど、今のあなたはもっと好きよ」

「国見さん、ありがとうございます」

 自分が少しずつ変わってきているのが、周囲にも伝わっていることがわかって嬉しくなる。

 昔の自分が嫌いだったわけじゃない。でも変わりたいと思っていたのも確かだ。

「じゃあ、ネクタイ探しに行く?」

「いや、ネクタイは……ちょっと」

 一般的にそういう意図があるものを渡すのに戸惑ってしまう。

「はずかしいのね。かわいい。じゃあ、他のものにしましょう」

「はい。あの同じ仕事に使うなら――」

 純菜は葵に相談しながら、壱生への誕生日プレゼントを選んだ。

「きっと喜ぶわよ、鮫島先生」

「そうだといいんですが」

 どんな反応をもらえるのか今から楽しみだ。

 恋愛をしたことで今まで知らなかった楽しみや喜びを感じる事ができる。それも相手が壱生だからに違いない。

「お腹すいたから、何かたべて帰らない?」

「いいですね」

「じゃあ行こう!」

 その後ふたりで入った創作料理の店で、壱生とのあれこれを根掘り葉掘り聞かれたのは少し困ったけれど、声をあげて笑うほど楽しい時間を過ごした。


 そして来たる五月四日、壱生の誕生日の一日前。

 純菜と壱生は箱根行の列車に乗っていた。

「壱生さん、見てくださいあれ富士山ですよね」

「ああ、そうだな」

 純菜のはしゃいでいる姿を見て壱生は苦笑を浮かべていた。

「いきなり旅行しようとか言い出したからびっくりしたけど、なかなか楽しいな」

「壱生さんも楽しいですか?」

「あぁ、楽しそうにしている君を見ているのは最高だな」

「もう……」
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