天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
 テラスで森林浴をしながら、ウェルカムドリンクで出されたシャンパンをふたりで楽しむ。

 グラスを傾ける壱生のくつろいだ様子を見て、ここまでのプランはおおむね成功だったとほっとした。

 それからふたりで広いホテルの中を散策したり、大浴場をお互い楽しんだ。

 純菜はそこで旅館が貸し出しをしている浴衣に着替えた。

 レモンイエローの浴衣は普段なら選ばない色だが、顔映りもよく旅館の方に進められて選んでみた。ほんの少しだけ化粧をしてみると華やかな雰囲気がして気に入った。

 仕上げに薄く壱生のくれたグロスを塗り部屋に戻る。

「おかえり」

 先に戻っていた壱生はビールを片手にスマートフォンを手にしていた。

「待ちましたか?」

「いや、そうでもないかな」

 言いながらスマートフォンから視線を純菜に移した壱生は笑みを浮かべた。

「おっ、いいじゃん。その浴衣」

 純菜にとって冒険だった色の浴衣を早速ほめてくれる。恥ずかしさと嬉しさで純菜ははにかんだ。

「こっちきて、もっと見せて」

 手招きされて引き寄せられるように、ソファに座っている壱生の前に立つ。

「近くで見たらますますいいな。それに俺の贈ったグロスもつけてる。最近あんまりつけてなかったから、うれしいな」

 そう言うと純菜の手を引いて彼女をかがませると口づけてきた。

「そ、そういうことをするから安易につけられないんです」

 このグロスを付けると、必ずといっていいほど壱生がキスをしかけてくる。

 ところかまわずキスされてしまうと純菜の心臓がもたない。なので最近では旭菱つけなくなっていたのだ。

「それって逆を言えば、今日はキスしてほしいってこと?」

「あ、いや。それは――はい」

 まだ日が高い。だから違うと否定するべきなのかもしれないけれど、嘘はつきたくなかった。

「なに、それ。最高にかわいいんだけど」

 笑いながら壱生は純菜を自分の膝の上に横抱きにした。そしてそのまま唇を重ねる。

「リクエストに応えたけど……もっと欲しい?」

 壱生の形の良い瞳が誘惑してくる。瞳だけじゃない、声や吐息……指先。体全部を使って放たれる壱生の色気にあらがうことなんてできなかった。

「もっとください」

「いい子だな」

 くらくらするほどの色気のある笑みを浮かべた壱生は、そのまま純菜の首筋にかみついた。そのまま舌先が白い肌の上をくすぐる。
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