天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
 しっかり着たはずの浴衣の合わせは、気が付けば緩んで壱生の侵入を許していた。

「んっ……あ、もう?」

 嫌なわけではない。でもまだ日が高い。こういうことをするのはもっと後だと思っていた。

「もう? そんなことよく言えたな。俺は朝から可愛い純菜を見せつけられて一刻も早くこうしたいって思ってたよ」

 話ながら帯が緩められる。

「もう十分待った。ほら、集中して」

 そんなこと言われなくても、壱生が本気を出したら彼のこと以外何も考えられなくなる。時間も場所も何もかも忘れて、羞恥心さえ奪われて全身すべてで彼を受け入れる。それしかできなくなる。

 純菜はたまらなくその瞬間が好きだった。

 狭いソファでせわしなくつながる。でもそのベッドまで数歩の距離も我慢できないという彼の気持ちがうれしかった。


 結局最後はベッドに運ばれた純菜がうとうとしていると、部屋の外から仲居さん声がきこえてきた。どうやら食事の準備をしに来てくれたみたいだ。

 ベッドサイドの時計を見ると時刻は十九時半。しばらくして声が聞こえなくなると、ゆっくりと部屋の扉が開いて壱生が顔を出した。

「純菜、飯食べられそう?」

「はい……お腹すきました」

「あはは。無理させたな悪い」

 結局一度で終わらなかったことを言っているのだろうけれど、おそらく反省はしてないだろう。

 のろのろとベッドを出て、浴衣を身に着ける。

 それまでけだるさを持っていたけれど、テーブルの上の色とりどりの料理をみて元気になったのだからゲンキンなものだ。

「美味しそう!」

 純菜が席に着いたのを見計らって、ふたりで食事を始めた。

 食前酒をいただいた後、料理に手を付ける。先付けからデザートまで旬のものを取り入れており、華やかな盛り付けはみているだけでも心が満たされた。もちろん味も申し分なくふたりとも心行くまで味わった。

 食事を終えたふたりは、並んで今日撮った写真を見る。

「ちょっと思ったんですけど、あまりにもベタな観光スポットばかりでしたね」

 まるで修学旅行で訪れるような場所ばかりだ。旅慣れた人なら地元の人しか知らないお店や穴場を調べて楽しんだのだろう。

「そこかいいんじゃないか。普段あちこち飛び回って国内外あちこち行ってるけど、こうやって彼女とゆっくりできることなんてないから、新鮮でたのしかった?」

「本当に?」

「ああ、ありがとう」
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