天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
もう笑ってごまかすしかない。あれこれ話をしている壱生の隣でただ心を無にして立っていた。
時折感じる壱生にあこがれを抱く女性社員からの冷たい視線と、葵の哀れみの視線を感じながら。
……今日一日、針のむしろだった。終業後、給湯室の片付けをしながら大きなため息をつく。
「純菜、本宮さんがいらっしゃるからお茶だけお願いできるか?」
「はい、わかりました。今日お約束でしたか?」
「いや、急に来たんだ。お茶よろしくな」
すでに待たせているようで壱生はすぐにその場を離れた。
お茶を用意して応接室に向かう。ノックをして中に入ると乃亜は壱生との話に夢中で、純菜を見向きもしなかった。というよりもわざと無視しているように見えた。
お茶出しが終わり部屋を出ていこうとしたときに「ちょっといい?」と壱生に呼び止められた。
「本宮さん実は私結婚したんです」
「え……」
壱生の言葉にそれまで楽しそうに話をしていた乃亜が固まった。
「私の妻の、純菜です」
「う……嘘でしょう?」
「いえ、事実です」
壱生がはっきりと告げると、乃亜はそのままふらふらと立ち上がった。
「あの、失礼します」
そう言ってすぐに部屋を出て行ってしまう。
「え、おいかけなくていいんですか? お話は終わったんですか?」
慌てる純菜だったが、壱生は気にしていないようだった。
「いつも何も用事がないのにこうやって事務所に押しかけてくるんだ。だから問題ない。とりあえずあちらの秘書に連絡はいれておく」
壱生は立ち上がるとまだ仕事が残っているのかオフィスへ向かった。
純菜は応接室の片付けをしながら、生気のぬけた乃亜の顔を思い出して心がざわざわした。
それから一カ月。
最初こそは冷たい視線を投げられることもあったが、いつも通りの日常がもどってきた。それも壱生があっけらかんと発表したおかげかもしれない。
結婚したことを秘密にしておけば、あれこれ気を遣って逆に大変だったかもしれない。
「壱生さん。そろそろ起きますか?」
つい一時間ほど前まで寝ていたベッドに腰かけて、まだねている壱生に声をかける。
「う……ん」
返事なのか唸り声なのか判断が難しい。
結婚してわかったことだが、壱生は朝が弱い。まだ籍を入れる前までは、純菜の手前、ちゃんと目覚ましをかけて起きていたようだ。
時折感じる壱生にあこがれを抱く女性社員からの冷たい視線と、葵の哀れみの視線を感じながら。
……今日一日、針のむしろだった。終業後、給湯室の片付けをしながら大きなため息をつく。
「純菜、本宮さんがいらっしゃるからお茶だけお願いできるか?」
「はい、わかりました。今日お約束でしたか?」
「いや、急に来たんだ。お茶よろしくな」
すでに待たせているようで壱生はすぐにその場を離れた。
お茶を用意して応接室に向かう。ノックをして中に入ると乃亜は壱生との話に夢中で、純菜を見向きもしなかった。というよりもわざと無視しているように見えた。
お茶出しが終わり部屋を出ていこうとしたときに「ちょっといい?」と壱生に呼び止められた。
「本宮さん実は私結婚したんです」
「え……」
壱生の言葉にそれまで楽しそうに話をしていた乃亜が固まった。
「私の妻の、純菜です」
「う……嘘でしょう?」
「いえ、事実です」
壱生がはっきりと告げると、乃亜はそのままふらふらと立ち上がった。
「あの、失礼します」
そう言ってすぐに部屋を出て行ってしまう。
「え、おいかけなくていいんですか? お話は終わったんですか?」
慌てる純菜だったが、壱生は気にしていないようだった。
「いつも何も用事がないのにこうやって事務所に押しかけてくるんだ。だから問題ない。とりあえずあちらの秘書に連絡はいれておく」
壱生は立ち上がるとまだ仕事が残っているのかオフィスへ向かった。
純菜は応接室の片付けをしながら、生気のぬけた乃亜の顔を思い出して心がざわざわした。
それから一カ月。
最初こそは冷たい視線を投げられることもあったが、いつも通りの日常がもどってきた。それも壱生があっけらかんと発表したおかげかもしれない。
結婚したことを秘密にしておけば、あれこれ気を遣って逆に大変だったかもしれない。
「壱生さん。そろそろ起きますか?」
つい一時間ほど前まで寝ていたベッドに腰かけて、まだねている壱生に声をかける。
「う……ん」
返事なのか唸り声なのか判断が難しい。
結婚してわかったことだが、壱生は朝が弱い。まだ籍を入れる前までは、純菜の手前、ちゃんと目覚ましをかけて起きていたようだ。