天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
「壱生さん、今日は壱生さんの大好きなワカメとじゃがいものお味噌汁ですよ」

 それまで無反応だったのに、ぐるっとこちらに寝返りを打った。

 なんなの……可愛い。

 思わず顔をほころばせると、こちらを向いた壱生が目をとじたまま口を開いた。

「純菜、君は勘違いをしている」

「え?」

「俺が今食べたいのは、純菜だよ」

 いきなり壱生の手が伸びてきて、純菜はあっという間にベッドに転がされた。目の前には寝起きの少し乱れた壱生がいる。

「おはよう。純菜」

「おはよう……ございます」

 挨拶をしてみたもものの、この体勢はあまりよろしくないような気がする。

 純菜は少しずつ体をずらそうとしたけれど、両手をがっしりと壱生につかまれた。

「逃げるの?」

「え、いや。だって遅刻しますよ」

「少しくらいなら許してもらえる。新婚なんだし」

「そんな就業規則ないですから」

 純菜が言い返すと壱生は不満を顔に浮かべた。

「純菜は真面目過ぎる」

「普通ですよ」

「じゃあ、キスだけ」

 大好きな旦那様にそう言われると、真面目と言われた純菜も拒否できない。ゆっくりと目を閉じると優しいキスが落ちてきた。

 そっと目を開くと壱生がにっこりと笑っていた。

 朝のお楽しみ時間を過ごした後、少々急ぎ目に身支度を整えると、純菜の作った朝ごはんを食べる。

 夜はなかなか時間が合わないのでせめて朝だけでも一緒に食べようとふたりで決めたのだ。

 平日はこうして純菜が準備することが多いが、休日の朝は壱生が担当することもある。なんとなく過ごしながらふたりなりのルールができてきた。

 そういう何気ないことひとつひとつが、ふたりを夫婦にしてくれているのだと思えた。

「今日は広島だっけ出張」

 先に出発する壱生を純菜が玄関で見送る。

「ああ、着いたら連絡する」

「気を付けてね」

 玄関を出ていこうとした壱生が、振り返って戻って来た。

「どうかしたの?」

「忘れ物」

 純菜の頬にキスをして「いってきます」と出て行った。

「もう……」

 まだ夫婦の振れないに慣れない。でもこのくすぐったい時間が純菜は大好きだった。

 その日仕事を終えて帰宅した純菜はひとりで食事をとりシャワーを浴びた。

 壱生がいる日なら彼の食事を用意したり、あれこれおしゃべりをしたりする。ひとりだと部屋がものすごく広く感じた。

「ピッピ元気かな」
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