天敵弁護士は臆病なかりそめ妻を愛し尽くす
 壱生が時々本宮家の秘書、玉川に連絡をとって様子を聞いてくれている。

 最近ペットシッターを雇ったらしくお世話は問題ないと聞いた。それでも寂しい思いをしているのではないかと気になってしまう。

 ソファに座ってなんとなくテレビをつけてみる。しかしあまり興味のある番組がなくてチャンネルをころころ変えていると、スマートフォンがメッセージを受信した。

 壱生さんかな。

 広島に到着した時に連絡があった。予定では今日は夜まで仕事が詰まっていたはず。そろそろ宿泊先のホテルに到着するころだ。

 ロックを解除してメッセージを確認する。するとそこに表示された一枚の画像に驚いた。

「これって、うちの病院?」

 それは動物病院の口コミサイトのスクリーンショットだった。グルメサイトと同じように☆の数で評価されている。よく見てみると星ひとつの投稿が続いていた。

「なにこれ……」

 画像の下にURLがあったのでクリックして内容を詳しく見た。

 コメントを見るとショッキングな内容が書いてあった。

【無駄な診療をされた。金儲け主義。星ひとつもつけたくない】

【保護した犬たちを虐待している】

【間違った箇所を手術された。謝罪もなく、その後のケアもしてもらえない】

 どれもひどい内容のものだった。しかもここひと月の間にこういった内容のコメントが増えている。

 父は何よりも動物と飼い主の気持ちに寄り添う獣医師だ。ここに書いてあるようなことをするような人間ではない。

 誰がこんなことを?

 純菜にはこの内容が嘘だとわかる。しかしこの口コミサイトを初めて見た人はどう思うだろうか。

 必死になって内容を確認していると、今度はSNSのURLが送られてきた。すぐにそこにアクセスすると、実家の動物病院の写真と共に誹謗中傷ともとれるひどい言葉が並んでいた。

中には営業を妨害するためにいたずら電話をよびかけるような書き込みもあった。

「これは……」

 純菜は心配になって母親、美帆のスマートフォンに電話をかけた。数回コールがなった後つながった。

「もしもし、お母さん」

『あぁ、純菜なの。何かあったの?』

 少し疲れた声をしているのがわかりますます心配になる。しかし直接聞いたところできっと「大丈夫だ」と言うに違いない。

「別に何もないよ。壱生さんが出張で少し寂しいだけ」

『あら、ごちそうさま』
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