夜を越える熱
河野(こうの)、部長室に行くから。顛末書持ってきて」


パソコンに向かう藍香は振り向いた。急に声をかけられた主が高松で、疲れきった頭の状態でも胸がどきりとしてしまう。





その日は一日がかりだった。システム障害の原因は、藍香のミス……使用不可の文字コードを使用してしまったことによる連携エラーだった。

係長と課長に呼ばれて事情を問われ、原因の説明を行ったあと、連携エラーが出た他課の課長たちのところまで説明と謝罪に回った。




それからすぐにデータの修復作業に取りかかり、終業時間間際にやっと何とか作業が終わりかけた…その時、高松に声をかけられたのだった。


「え、部長室ですか、今から…?」

疲れ切ったひどい顔に見えなければいいな、と願いながら高松を見上げる。部長室というところには、ただの担当者である藍香は行ったこともない。部長の顔もはっきり分からないくらいだ。


「藤井課長が行ってこいって。俺も付いていくよ」


少し困ったような顔をして高松はそう言った。この部署の長である藤井課長が今回の件でかなりお怒りなのを高松も知っているのだ。

「高松さんも?」
「そう、一応主任だからね」

そうだった。彼は主任になったのだった。でも主任だからというよりは、散々な目に遭った上にこれから部長にまで叱られるだろう自分のことを気の毒に思って、そう申し出てくれているような気がした。









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