夜を越える熱
無防備な恋
「聞いてくれる?私ね、この前話ししたようなことあったけど。それに仕事もこんな感じで全然ダメなんだけどね、……好きな人が出来たかもしれない」



急に明るくなった藍香の表情。恭佑は落ち込んだ彼女の顔しか見たことがなかったが、花が咲いたように空気が華やかになった気がした。

「好きな人……?」

「うん。私失恋したけど、でもあの人……藤崎部長。初めて会ったけど、好きになりそうな気がする」


驚いた。


長年片想いしていたと泣いていた初対面の彼女。泣いて帰った金曜日のあの後もずっと気になってしまっていた。もう会うこともないだろうと思ったのに。


あの夜。


別に下心があって話しかけたわけではなく、輪に入れなかったところへ一人でいる彼女を偶然見つけたのだった。


彼女の名前は覚えていたし、あまり話さず皆に合わせて時折笑顔だけ見せているのは気づいていたが、急に一人で離れたところにいるのが不思議だった。



偶然だったが彼女の話しを聞いて、羨ましくなった。



羨ましい。


伝えられなかったと泣いてまでずっと想ってもらえる誰か知らない男のことを、羨ましく感じたのだ。




もしかすると彼女が自分の想いを伝えていたら状況が変わったかもしれないな、と思ったがそれは言わないでおいた。
 

行き場を無くした想いを閉じ込めなければならない彼女は、あの夜の中で不思議と魅力的だった。



この子を慰めてあげたいとまで思ってしまったが、その感情は恭佑の心の中で押し殺した。


あまり一緒にいると、どうだろうか。


そんな突発的な思いが膨れ上がらなければいいが。



そう考えたとき、彼女はふいに帰ってしまったのだ。

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