夜を越える熱
松岡から逃げるようにその場を去った。


─早く、早くあの人から離れなければ。早く忘れるために……。


足早にバーに向かう。


─苦しい。松岡さんの側にいるのは……。彼の姿を見て、声を聞いて、優しくされるのは…。この気持ちを完全に、早く殺してしまわなければいけないのに。



私に構わないでください。


私に優しくしないでください。


そう言ってしまいたかった。


優しかった松岡がずっと好きだった。

でも今となっては松岡の優しさは棘でしかない。藍香の心を突き刺す棘でしか。




空を見上げる。真っ暗な地上と対象的に、遠い空の向こうだけ赤い光が見えた。








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