夜を越える熱
今井のこんな強めの口調は初めて聞いた。

「分かってる。私にとっては上の上の、上の人だって。でも惹かれてるのには関係ない。年齢も。藤崎さんがいくつ歳上でもいい。……向こうは私みたいなの、相手じゃないかもしれないけど……」


今井の強い視線が藍香を捉える。


「分かってるか?改善策を提案することは悪いことじゃない、でも課長に楯突くことになるかもしれない。藤崎部長と藤井課長は意見が一致しないんだ」

それは初めて聞かされる事実だった。


「…そうかもしれないけど、いい。前も言ったけど私には失うものは無いの。やりたいようにやる」


「……藤崎部長に妻がいないかとか、そんな事は気にしないのか」


「それはご本人に自分で聞く。だって今井さんは関わらないって言った。…何も教えてくれないもの」
 

強く見定める藍香への視線が、跳ね返されるように視線で返される。


あの夜泣いていた彼女とは別人のように意思のある瞳だ。


「……藤崎部長は、とても頭の切れる方だ。……話してたら分かるだろ?河野さんがわざわざ部長室に来た理由に確実に気づいてる。仕事で評価されるために近づいてきたか、男として興味を持ってきたか、どちらかだろうくらいには必ず気づいてる」


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