夜を越える熱
送るよ、と言うと今井は徒歩で帰る藍香に付き添ってくれた。

藍香の歩幅に合わせてくれている、と感じる。


いつもの帰り道が、夜の景色と隣に今井がいることで不思議と特別な道に感じる。


「……今日は、あの集まりは何だったの?」

「友達の美桜……高橋さんが私に付いてきて欲しかったみたいで。宮地さんと二人で会うのがどうかなって思ったみたい」


「…そう。仕事してたら吉田から連絡が来て、藍香が泣いてるって言うから、藤崎さんと何かあったのかと思った」


「ううん。泣いてないよ。吉田さんが勝手にそう言ったの」

「何で俺の話が出たの?」

「吉田さんが何か話せって言うから……お悩み相談みたいになっちゃって」


今井は笑った。

「吉田、あいつ面白いけどめちゃくちゃでね。いつもぶっ飛んでるけど、今日のは本当に驚いたよ」

「ごめんね、仕事してたのに」

「いいよ。藍香が俺のことを気になってるって知れたから」



人通りのない静かな住宅街。街灯の灯りが道路のところどころを照らす。遠くに見える高層マンションの灯りがきらきらと輝いて見える。


立ち止まった今井に突然見つめられる。


「キスしていい?」

一歩近付いてきた今井に問われた。

「……気になってくれるなら。それで藍香の心が俺に傾くなら、キスさせて」







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