夜を越える熱
小さく頷いた瞬間、そっと顎から耳にかけて両手で包み込まれた。

─温かい手…

そう感じた思考は柔らかく唇を塞がれてあっという間に消えて行く。


触れ合っただけの唇。至近距離で感じる今井の香り。それが心地よくて何も考えられなくなる。


唇が離れたとき、思い出したように呼吸した。息をするのも忘れていたと気がついたとき、もう一度身体を引き寄せられ、角度を変えて唇を重ねられた。


今度のキスは触れるだけではなかった。不意打ちで、呼吸するために開いていた唇の隙間を今井の唇と舌で甘く吸われる。そしてその隙間から舌が入ってくると、さらに口づけは深くなった。



「………ん……っ」


思わず甘い声が漏れる。息をする暇も与えられず、呼吸が荒くなる。


口づけの甘い水音が耳に届く。



その音と、感覚。今井に捉えられた唇と、侵入してくる舌に否応なく強い快感が与えられる。甘い痺れが全身から力を奪い、立っていられなくなりそうになってようやく唇を離された。支えるように抱き締められた。





「………こんな事して…俺の方も本当に好きになりそうだ………」

耳元でする、熱に浮かされるような声。
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