夜を越える熱
「仕事の話は辞めよう。与えるべきでない情報をきみに与えるかもしれないからね」


藤崎は前を見ながら笑っている。
本来藍香が知るはずのないことを、こうして二人でいることで知ってしまうのがまずいだろうという意味だ。


端正な横顔。立ち居振る舞いからも藤崎からは知性とどこかしら色気を感じる。


─藤崎さんは……感情が見えない。すごくクールだ。……恭佑と対象的かもしれない。


仕事では藤崎は恭佑のことを高く評価している。きっと恭佑の方も藤崎と合うのだろう。対象的な性格でも、仕事では相性が良いのだろうか。


─藤崎さんはこういう人?ううん、クールなのは、私に気がないから……?


車はいつの間にか大きなビルの地下に滑り込んだ。ここがどこなのか、藍香には検討もつかない。


「何が食べたいか聞いてなかったね。食べられないものがある?」


「いえ、私は、何でも」

「じゃあ中華にしようか」


地下に停めた駐車場から、エレベーターで上層階へと上がる。先に立って歩く藤崎に付いて行き、エレベーター内では二人きりだ。途中から人が数人乗り込んできたが、藤崎と藍香はどう見えるだろう。カップルに見えたりするのだろうか。


─藤崎さんと私は、何歳違う?10歳、いやもっと離れてる。15歳くらいかな……藤崎さんの年齢すら私は知らない。


藍香より少し歳上の恭佑とは違う。年齢だけではない、藤崎の動じない雰囲気に惹かれる。



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