夜を越える熱
『泣かされて帰っていた』と誤解されていたことに驚く。



「ううん、泣いてない、気持ち悪かっただけ。泣かされたりしてないよ」

慌てて否定した。


話を聞いてくれた、あの『今井』という男性に申し訳なくなった。


「そうなの、それなら良かったんたけど……。結局、途中で帰っちゃったけど今井さんとはどうだったの?彼、密かに女の子たちに人気あったんだよ。でも藍香が帰った後に彼も帰っちゃったの。それでがっかりした子もいてね」

「そうなの……」

申し訳なかったな、と思う。


(私が暗い話しして泣いたりしたから、もともと乗り気じゃなかったのにさらに気分を落ち込ませたかな…)


暗がりであまりはっきりと顔も見えなかったけれど、とても知的な瞳と優しげに聞こえた声の感じを思い出した。飾らない人だったように思う。





「美桜は?良い出会いあった?」

その先の会話を思いつかず、友人の話へと逸した。

美桜も前の彼と別れてから……遠距離の恋人とはすれ違いが続き、美桜の方から別れを切り出したのだが、それから恋人はいない。

「何人か連絡先は交換したけど、どうなるかなって。ちょっといいなと思う人はいたよ」


嬉しそうに話をしだした友人にほっとする。もうこちらのことは気にしてないようだ。



(もうあの人とは会うこともない…)


月曜日からは気持ちを切り替えて仕事に行こう。

好きだった人の姿を職場で目にしてしまっても、きっと頑張れると思う。前を向くためにどうしてもそうするしかないのは分かっていた。



(愛する能力)



今井という男性が言っていた言葉を急に思い出す。


変わった言葉だと思う。昨夜見た、闇に輝くあの灯りたちのように、その言葉が藍香の胸に残った。







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