夜を越える熱
それ以上恭佑に何と言っていいのか分からなくて、ロックが解除されたガラス扉の奥に滑り込もうとした。





「藍香」


恭佑の横をすり抜けようとしたとき、左手首を取られた。




……手を取られながら絞り出すように呼びかけに答える。






「……やっと、苦しい片思いや失恋を忘れさせてくれる人に出会ったの……」



「藍香、俺もそうだ」


立ち止まる足。恭佑を見上げる。


「俺もそうだよ」


握られた手から体温が伝わってくる。



「…藍香は失恋したことを俺に話した時、聞いたね。今井さんはこんな思いをしたことがあるかって」


思い出す。


初めて会ったとき。


若い精悍な見た目、洗練された優しい立ち居振る舞い。女性に困ることなんて無さそうだと恭佑を見たとき思ったのだった。



そんな人に理解はしてもらえないと心のどこかから出た言葉。





「あるよ。だからこうしてる。好きになった人を離したくない。……俺の側にいて」





泣きたくなった。




「俺が大切にする」



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