夜を越える熱
──少しでいい。



この人の強い心に入り込みたい。






まだ、何も始まっていない。始まる機会さえ、今
立ち消えようとしている。





先のことなんてどうでもいい。約束も、ずっと続く未来への可能性も要らない。




────振り向いて。私の方を。




祈るように差し出したメモ。



自分自身にしか分からないくらい小さく手の先が震えた。







膝に、ゆっくりと手を落とした。



黙って助手席のドアを開けようとした時。




右手の指先から、そこに挟んでいたものが素早く引き抜かれた感覚───



振り返る。



藤崎さんの指の間に移ったメモが見えた。








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