夜を越える熱
──何もしないなら、いいよ。……





昨夜のことが頭をよぎりながら、なぜかそう答えていた自分がいた。


私の言葉に、ゆっくりと立ち上がる恭佑。


「分かった」






……………………

「夕ご飯は?食べた?」


私について靴を脱ぎ、玄関から部屋に上がる恭佑。昨夜は恭佑に抱き抱えれられるようにしてここを通った。



沈黙が怖くて話しかける。


「軽く食べたよ」

「うん、そっか。……あ」


部屋に入って気がついた。何も考えていなかった。


「着替えとか、無かったね」


「いい。俺、少し眠ったら帰るから」


恭佑はそう言いながらスーツのジャケットを脱いでネクタイを外し、襟元を緩める。借りるよ、と言って空いているハンガーにそれをかける。



明るい部屋の灯りのもと、少しラフに着崩した恭佑の姿にどきりと心臓が跳ねる。




「……見すぎだよ」



気づいたらあっという間にベッドの上に押し倒されていた。

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