カフェオレ色のアナグ・・・ラ[ブ=]無 ─ Anagram ─
「五年前、初めて会った貴女の中身は『空っぽ』でした──」

「……からっぽ?」

 無言で頷いて、(あわ)れみを含んだ笑顔を向ける。

 綺麗な指先がワタシの唇を端から端へと優しく()ぜる。

「あの時の僕は、そんな貴女と二三の会話を済ませたら立ち去るつもりでした。でも空っぽな自分を埋めたいと願う、貴女の眼差しに(とら)われてしまった。同時に貴女を埋め尽くしたいという自分の欲にも気付きました」

「ワタシの……からっぽを、埋め、る……」

 ワタシとハクアくんに、同時に芽生えた──欲望?

「僕の言葉に耳を傾け、自分の物にしようと欲する貴女の内部は、とても美しい輝きを放ち出して、やがて(まぶ)しいくらいになった……受験に向けてのあの一年は、本当に心が(おど)りました。貴女の空っぽな空間が、とてつもないスピードで構築されてゆく……けれどそれは全て僕自身の持つ知識でした」

 そこで一旦話を止めたハクアくんは、まるで衝動が止められないみたいにワタシの唇に戻ってきた。

 再び感じる、抜き去られてゆくかの如き快感。

「だから、ね……僕には更に四年の歳月が必要だったんです」

「更、に……?」

 (からだ)は既に脱力しかけて、ハクアくんの熱い抱擁に支えられていた。

 反面ワタシの「中身」はその答えを(むさぼ)らんと、深奥(しんおう)の先の先まで冴え渡っていた──。


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