カフェオレ色のアナグ・・・ラ[ブ=]無 ─ Anagram ─
「まあね。アナタと話したことないワケだし。名前も知らなかったし」
「貴女が図書館で僕を見かけたなら、少なくとも本を貸し出す際に、二三の会話は交わしたかも知れませんよ? どちらにせよ僕のことを覚えていてくれたことには感謝しなければいけませんし、貴女のことを覚えていなかったことは……謝らなければ」
そう言って彼はゆっくり頭を下げた。
驚くほど丁寧な姿勢に、そんなことに慣れていないワタシは戸惑う。
そして少し恥ずかしかったのかもしれない。
実のところワタシは本を借りたことなどないからだ。
図書館に通っているのは飽くまでも受験勉強の為。
静かな場所と時間をご提供いただいているだけ。
と言っても余り勉学ってものに興味のないワタシの目と指は、気付けば参考書の影に隠したスマホの画面に向けられているのだけど。
「でもこれで『知り合い』に昇格でしょうか? 以後お見知り置きを……僕はアナログではなく、名黒と申します」
「ナ……グロ、さん??」
再び──見上げた先にある見知った顔が、「どうぞ宜しく」と言うふうに首を傾げて微笑む。
細い銀ブチ眼鏡の向こう、優しそうな瞳がほんのりと弧を描いていた──。
「貴女が図書館で僕を見かけたなら、少なくとも本を貸し出す際に、二三の会話は交わしたかも知れませんよ? どちらにせよ僕のことを覚えていてくれたことには感謝しなければいけませんし、貴女のことを覚えていなかったことは……謝らなければ」
そう言って彼はゆっくり頭を下げた。
驚くほど丁寧な姿勢に、そんなことに慣れていないワタシは戸惑う。
そして少し恥ずかしかったのかもしれない。
実のところワタシは本を借りたことなどないからだ。
図書館に通っているのは飽くまでも受験勉強の為。
静かな場所と時間をご提供いただいているだけ。
と言っても余り勉学ってものに興味のないワタシの目と指は、気付けば参考書の影に隠したスマホの画面に向けられているのだけど。
「でもこれで『知り合い』に昇格でしょうか? 以後お見知り置きを……僕はアナログではなく、名黒と申します」
「ナ……グロ、さん??」
再び──見上げた先にある見知った顔が、「どうぞ宜しく」と言うふうに首を傾げて微笑む。
細い銀ブチ眼鏡の向こう、優しそうな瞳がほんのりと弧を描いていた──。