カフェオレ色のアナグ・・・ラ[ブ=]無 ─ Anagram ─
 ワタシは()えて『彼氏』の存在を否定も肯定もしなかった。

 正直に言えばそういう対象は現存しない。

 でも「いない」ことを白状するのも(しゃく)だと思ったのと、「いる」とすれば今後の展開次第では断る理由に出来るから、と思ったというのもある。

「あの柱の向こうにフリースペースがありますから。書類を出したら参ります。これどうぞ、お好きな物を買って待っていてください」

「あぁ、うん……ありがと」

 綺麗な指先がジーパンのポケットを探って、見つけた五百円玉をワタシの(てのひら)に乗せた。

 彼が視線を送った柱の向こう、その端に見つけた自動販売機を目指す。

 飲み物を選んでふと振り返った時、書類の残りを書き終えた彼も、奥のカウンターを目指して背を向けていた。

 今は月曜午後三時、場所は市役所一階ホール。

 彼は証明書発行窓口でも利用しにやって来たのだろう。

 そしてワタシは開放された構内を、単に近道として通り抜けようとした帰宅途中の女子高生だった。


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