淡く、幼く、頼りなくて、あっけない

 中学一年生のとき、同級生の聡志とわたしは、両想いだったと思う。

 同じクラスで席も隣。入学式の日、席に着くと同時に仲良くなった。新生活の不安と緊張で静まり返る入学式前の教室で、わたしたちだけが楽しく話していた。

 部活中に教室のベランダで楽器を吹いていると、聡志はグラウンドでサッカーボールを追って走りながらも、必ず手を振ってくれていたし、休憩に入るとダッシュで教室までからかいに来た。
 授業中は机をくっつけてずっと筆談をして、たまに揉めて机の下でパンチの応酬。そしてその延長でこっそり手を繋いだりもした。聡志が名前で呼ぶ女子も、誕生日プレゼントを渡したのも、わたしだけ。
 だからきっと両想いだろう、と。思い込んでいた。

 でもその仲の良さをクラスメイトにからかわれ、気恥ずかしさで話さなくなり、一年生が終わる頃には目すら合わなくなった。

 二年生になってクラスが離れた聡志は、うちのクラスの里香ちゃんと付き合い始めたらしい。里香ちゃんが彼と交換したというネームプレートを見せびらかしていた。毎日、毎日。何度も、何度も。事あるごとにブレザーの左ポケットから出てくるネームプレートを、わたしは視界に入れないように努力した。

 十三歳の淡い恋なんて、そんなものだろうと思った。幼くて、頼りなくて、あっけない。初恋ほどのインパクトもないから、形に残らなければきっとそのうち忘れてしまう。それくらいの淡い恋が、始まらないまま、静かに終わった。


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