さよならと誓いのキス
3
琴乃が勤めるビルメンテナンス業の会社クリーンデイズは、柴の勤める会社アールカンパニーと契約をして日々社内の清掃を行なっており、契約の間のスタッフの休憩は社員食堂を使っていい決まりになっている。そのため、社員が少なくなる時間を狙って休憩に使わせてもらう。琴乃は同僚二名と共に端のテーブルを使っていたのだが、先日の給湯室の女性社員二名がこれを見つけ、近づいてきた。
「掃除のおばさんさあ、ここ使っていいわけ? 埃っぽいじゃん、他所で食べてよ〜食欲失くすわあ」
「埃まみれのくせによく社員に色目使えるよねえ、しかも柴さんよ?」
――どうして絡んでくるの……!? それに色目って何!?
少ないながら、他の社員さんだって休憩しているのに、彼女たちは隅のテーブルの、琴乃のところにわざわざ来て、給湯室での会話くらい大きな声で嫌味を言い出した。誰に対するアピールなのかわからないし言い返しても無駄だと思うから、食べかけの弁当を見つめていた。本当に意味がわからない。言うだけ言えば満足して居なくなるだろうと思って居たが、我慢できずに同僚が動いた。
「いい加減な事言わないでください。私たちはここを使っていい契約になっているんです」
同僚の一人が言い返した。
『やっちゃん、いいから』
小声で言うが、それをかき消す声が続いた。
「だってそんな汚れた格好だしさ〜食欲失くすじゃん、使っていいって言われてもそこは気を利かせて辞退すべきじゃないの〜?」
「ほんと使えない。だから掃除――」
ガシャン、と音が響いた。
柴がいた。
「君らの声でご飯が不味くなる。食べ終えたなら仕事に戻れ、休憩中の皆の邪魔をするな。――この間もそうだったが、君らは掃除をしてくれている彼女たちを軽視しすぎている衒いがある。社内清掃の研修の話、進める必要がありそうだな」
女性たちは琴乃を睨み返して食堂を後にした。
「あの、また、ありがとうございました。何故か彼女たちから絡まれて――意味わからなすぎて逆に笑えます」
フフッと噴き出してしまった。そういえばこの前もそうだったな、と思い出した。
「彼女らは、どうしようもないな。人事でもリストには上がっている。どうも自分達が優位でないと生きていけないようだ。社内清掃の研修の件は嘘じゃないんだ、そのうち受けさせる。君の苦労を知らずに侮辱なんて許さない」
言葉の最後はよく聞き取れなかったが、琴乃は嬉しくなった。
「掃除のおばさんさあ、ここ使っていいわけ? 埃っぽいじゃん、他所で食べてよ〜食欲失くすわあ」
「埃まみれのくせによく社員に色目使えるよねえ、しかも柴さんよ?」
――どうして絡んでくるの……!? それに色目って何!?
少ないながら、他の社員さんだって休憩しているのに、彼女たちは隅のテーブルの、琴乃のところにわざわざ来て、給湯室での会話くらい大きな声で嫌味を言い出した。誰に対するアピールなのかわからないし言い返しても無駄だと思うから、食べかけの弁当を見つめていた。本当に意味がわからない。言うだけ言えば満足して居なくなるだろうと思って居たが、我慢できずに同僚が動いた。
「いい加減な事言わないでください。私たちはここを使っていい契約になっているんです」
同僚の一人が言い返した。
『やっちゃん、いいから』
小声で言うが、それをかき消す声が続いた。
「だってそんな汚れた格好だしさ〜食欲失くすじゃん、使っていいって言われてもそこは気を利かせて辞退すべきじゃないの〜?」
「ほんと使えない。だから掃除――」
ガシャン、と音が響いた。
柴がいた。
「君らの声でご飯が不味くなる。食べ終えたなら仕事に戻れ、休憩中の皆の邪魔をするな。――この間もそうだったが、君らは掃除をしてくれている彼女たちを軽視しすぎている衒いがある。社内清掃の研修の話、進める必要がありそうだな」
女性たちは琴乃を睨み返して食堂を後にした。
「あの、また、ありがとうございました。何故か彼女たちから絡まれて――意味わからなすぎて逆に笑えます」
フフッと噴き出してしまった。そういえばこの前もそうだったな、と思い出した。
「彼女らは、どうしようもないな。人事でもリストには上がっている。どうも自分達が優位でないと生きていけないようだ。社内清掃の研修の件は嘘じゃないんだ、そのうち受けさせる。君の苦労を知らずに侮辱なんて許さない」
言葉の最後はよく聞き取れなかったが、琴乃は嬉しくなった。