さよならと誓いのキス
5
季節は梅雨入り間近。
琴乃は本社での研修のためいつもの会社での作業を休んだが、研修の帰り、何となく柴に会えたらいいな、と思いつつ遠回りをした。電車で手前の駅で降りればいいだけだから遠回りにはあたらないかもしれないが、家に着く前に、何となく、そうしたくなった。
けど、そう簡単に会えるわけでもなかった。社屋が見えるところまで行ったものの、柴が今日は何時あがりなのか、そもそも出勤しているのかすら知らない状態だから、来ても意味がないのだと気がついた。
「そう会えるわけないか〜」
独り言を呟いて、駅までの坂を登り、マジックアワーの空を眺めつつ、途中の公園から聞こえる楽しげな会話に視線を向けた時、後ろから自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。聞いたことのある声、聞きたかった声、会いたかった人だった。
「柴さん?! どうなさったんです、走ってらしたんですか」
乱れた前髪に、着崩れたスーツ。手を伸ばしてそれらを直してやる。他意はなく、ただ乱れていたから直してやった。
「諏訪原さんよかった、間に合った。玄関を出たらあなたの後ろ姿が見えたもんだから」
息のあがる柴を休ませたくて、公園のベンチを指差した。
「いったん座りましょう?」
琴乃は本社での研修のためいつもの会社での作業を休んだが、研修の帰り、何となく柴に会えたらいいな、と思いつつ遠回りをした。電車で手前の駅で降りればいいだけだから遠回りにはあたらないかもしれないが、家に着く前に、何となく、そうしたくなった。
けど、そう簡単に会えるわけでもなかった。社屋が見えるところまで行ったものの、柴が今日は何時あがりなのか、そもそも出勤しているのかすら知らない状態だから、来ても意味がないのだと気がついた。
「そう会えるわけないか〜」
独り言を呟いて、駅までの坂を登り、マジックアワーの空を眺めつつ、途中の公園から聞こえる楽しげな会話に視線を向けた時、後ろから自分を呼ぶ声が聞こえた気がした。聞いたことのある声、聞きたかった声、会いたかった人だった。
「柴さん?! どうなさったんです、走ってらしたんですか」
乱れた前髪に、着崩れたスーツ。手を伸ばしてそれらを直してやる。他意はなく、ただ乱れていたから直してやった。
「諏訪原さんよかった、間に合った。玄関を出たらあなたの後ろ姿が見えたもんだから」
息のあがる柴を休ませたくて、公園のベンチを指差した。
「いったん座りましょう?」