さよならと誓いのキス

6

 一瞬だった。柴に右手を取られ、戸惑っている間に、上体は柴の方を向かされた。首に手が添えられて強く引かれたと思ったら唇に柔らかいものが触れた。すぐ前には柴の顔があり、シダーウッド系の香りが強まった。

 驚いて声も出なかった。軽く重なった唇が離れ、柴を見つめた。

 ――なに、なに……。

 柴は苦しそうに眉を寄せ、琴乃の肩に手を添えたまま見つめてきた。その瞳は揺れて、熱が宿っていた。

「柴さん、どうし……」
 問いかける琴乃の小さな声は、再び近づいてきた柴の唇との間で無音になり、やがて吐息へと変わった。先ほどの唇が触れるだけのキスとは違って、今度は琴乃を強く求め深く絡んできた。辺りには舌の絡む水音との吐息が響き、境目がわからないくらいにかき抱いて、ただただ互いを貪り続けた。

 琴乃は腰から力が抜ける感覚を覚え、必死に柴にしがみついた。塞がれているため鼻で呼吸をするも、柴のウッド系の香り何かが混ざったまろやかでしっとりした香りにくらくらとしてくる。体温で余計に香水の香りが強まり、その香りにも包まれながら、琴乃が知っているキスとはまるで違う初めての感覚にどうにかなってしまいそうだった。
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