線香花火の初恋【短編】
渋々、一緒にしゃがんで線香花火に火をつけた。初っ端から、線香花火。線香花火の先端が丸く、少しずつ膨らんでオレンジの玉を作る。そしてじりじり、と音を立てて、オレンジの玉から小さく弾けた火花を黙ってみていた。
クラスメイトはきっと騒いでいるであろう、そんな喧噪はなにも聞こえない。
二人の吐息と線香花火の小さな振動だけで。そして、ぼと、とオレンジの玉は落ちた。

「まだ、あるから頑張れ」

無理やりに岸田君は渡すと、また遠慮なしに火をつけた。
そして、ぼそっと呟いた。

「線香花火で花本みたいだな」
言われた意味が理解できなくて、少し動揺した。
そしてオレンジが弾ける前に火種が落ちた。岸田君のはとっくのまえに落ちていた。

「あーあ、勿体ない。はい」

「いや、二人でしていたらみんなの分なくなるよ」

「いいんだよ、気づかねえよ」

投げやりに岸田君は言うけど、線香花火が入っていない花引キットなんて見たことない。

「だって、お前逃げねえじゃん」

「え?」

また、火がつけられて、恋心が知られた夕焼けみたいな火の玉が出来上がって。
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